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回収したプラスチックで海洋環境整備船を動かしてみては?

プラスチック廃棄物を船の燃料にすれば、新たな化石燃料の排出がなくなり、清掃作業の時間を短縮できる

文:Prachi Patel
2021年11月25日
(Click here for the English version)

世界中の海では、大量のプラスチックごみが何年にもわたって漂い、海洋動物や海鳥に悪影響を与えています。海の清掃に出かける船は、通常、ゴミを船内に保管し、何千キロもかけて港まで運んでいます。

この新しい研究は、プラスチックごみを船上で燃料に変え、自力で清掃活動を行うという効率的な方法を提案しています。これにより、港への往復回数が減り、船が必要とする化石燃料も不要になると研究者らは米国科学アカデミー紀要に報告しています。

海には、毎年480万トンから1270万トンのプラスチックが流れ込んでいます。これらのプラスチックの多くは、海流によって形成される渦の部分に蓄積されます。このプラスチックのゴミを除去するプロジェクトが現在実施されています。最も注目されているのは、2013年に発足した非営利団体「The Ocean Cleanup」です。このプロジェクトでは、小型船を使って浮いているブームを公海上で曳航し、浮遊する海洋プラスチック汚染の90%を除去することを計画しています。

ブームを曳航してゴミを持ち帰るには化石燃料を燃やす必要があります。この方法ですべての海洋プラスチックを除去するには、楽観的なシナリオで50年かかると言われています。プラスチックを積み降ろしたり、船に燃料を補給したりするための往復がなくなれば、この期間は短縮されるかもしれません。

この新しい研究では、ハーバード大学、ウォーチェスター工科大学、ウッズホール海洋研究所の研究者らが、自力でプラスチックを回収することが清掃作業にかかる時間と燃料使用量に対してどのような影響を与えるか調べました。

研究者らは、水熱液化法(HTL)というプラスチックを燃料に変換する技術の概要をまとめています。このプロセスは、300〜500℃の高温と高圧を利用して、プラスチックを燃料として使用できる化学物質に変換するものです。研究者らは、船に搭載可能なHTLリアクターで船だけでなくリアクター自体を動かすのに十分な量の石油を生産できると、コンピューター・シミュレーションツールを用いて計算しています。

船上で廃棄物を燃料化すると、もう一つ利点があると研究者らは指摘しています。現在、清掃船でのプラスチックの回収は、燃料の使用量を最小限に抑えるため、作業員が回収ブームからプラスチックをすくい上げて小さな袋に入れるという手作業が一般的です。しかし、船上の燃料リアクターを使えば、プラスチックの自動回収がより現実的になります。

この方法では、ブームの中にプラスチックを通過させ、リアクターまで運びます。細断してリアクターに運ぶ前にプラスチックから塩分を除去します。

自力航行で太平洋ゴミベルトを解決するために必要な期間は設置できるブームの数とブーム間の距離によって変わってきます。例えば、50km離れた場所に1,000個のブームを設置した場合、そのエリア全体を清掃するには10年かかります。

研究者らは、海洋プラスチックを燃料に変えることで最終的には二酸化炭素が排出されることが注意点であると指摘しています。しかし、その量は化石燃料を使ってゴミのあるエリアと港を往復する際に排出される量より少ないといいます。さらに、プラスチックを燃料に変えることで、新たな化石燃料の排出がなくなると同時に海をきれいにすることができるので、環境にとってもよい影響を与えます。

出典:Elizabeth R. Belden et al. Thermodynamic feasibility of shipboard conversion of marine plastics to blue diesel for self-powered ocean cleanup, Proceedings of the National Academy of Sciences, 2021.