Search By Topic

SEARCH BY TOPIC



自然に基づいた農法は、化学肥料との併用で収量を増やすことができるのだろうか?

自然に基づいた農法が化学肥料の大部分を補い、高い収量を達成できることを生態的集約化(ecological intensification)に関する最も包括的な研究の1つが明らかにました。

文:Emma Bryce
2022年6月8日

農業において、環境に優しい農法が工業的な農地と同じ収穫量を達成できるのかということは長年の疑問です。

新しい研究によるとその答えは少なくとも部分的には可能だということです。自然に基づいた農法と伝統的な農法を適切に組み合わせることで、化学肥料の使用量を大幅に減らしながら、同じ収穫量を得ることができると示しています。

この研究では、ヨーロッパとアフリカで使われた自然にやさしい農法に関する30以上の長期的な研究(そのうちのいくつかは9年間にわたるもの)を通じて集められた大量のデータを分析し、作物の多様化、マメ科植物などの窒素固定植物の栽培、廃棄物の土壌への撒布などの方法が、世界の農地で高収量を得るために投与されている化学肥料の大部分を代替できることを研究者らが明らかにしました。

これらの方法は、現在普及が進んでいる「生態的集約化(ecological intensification)」と呼ばれる農業アプローチに該当します。これは「収量の維持または増加のために、人為的投入の役割を補完または代替する」一連の自然プロセスを説明するものであると研究者は書いています。この新しい研究で引用された一人の研究者は、これらの手段を「自然によって維持され、自然の中で持続可能であるもの」と説明しています。

従来の農業では土壌や水、海洋を著しく汚染し、生産過程で大量の温室効果ガスを排出する化学肥料がその多くを占めていましたが、これはその影響を軽減しつつ、高い食糧生産量を維持することを目的としています。

さまざな農業において、これまで生態的集約化がどの程度収量を増加させるのか、誰も実際に調査したことはありませんでした。そこで研究者らは、様々な手段を用いて30件の研究から収集した確実なデータを組み合わせ、その効果を比較対照できるモデルを構築しました。

このデータセットには、生態的集約化に関する方法とさまざまなレベルの合成肥料散布を組み合わせた農場試験もいくつか含まれています。これを用いて研究者は、自然に優しいアプローチが、収量を増加させるためのより伝統的な方法とどの程度両立できるかを調べ、相乗効果の可能性について調査しました。

その結果、さまざまな地域や農業の状況において、生態的集約化が化学肥料の重要な代替物となり得ることが明らかになりました。農地にマメ科の窒素固定植物を植えれば、窒素が土壌に固定され、植物に自然に栄養分が供給されます。また、家畜の糞尿を土壌に混ぜると、窒素、リン、カリウムが供給され、収穫量が増えます。また、被覆植物で作物を多様化することで、土壌の肥沃度を高め、病害虫に強い畑にすることができます。

しかし、研究者らはこの関係に複雑な問題があることも明らかにしています。それは、農家が土壌に与える化学的な窒素肥料の量によって、生態的集約化の効果が制限されることです。通常レベルの化学肥料が畑に散布されている場合、自然に優しい農法の利点が打ち消されてしまうのです。例えば、窒素固定効果のあるマメ科植物を加えても、少量の化学肥料を施した場合のみ収量が増加し、窒素肥料を広範囲に散布した場合には、その効果はかき消されてしまいます。同様の結果は、堆肥の散布や作物の多様化でも見られています。

一方、農地に窒素肥料を全く施さない場合、自然に基づいた農法では従来の肥料を使った作物と同じ収量が得られないことがわかりました。研究者らは、スイートスポットを見つけることが重要だと指摘しています。また「このようにいくつかの方法を組み合わせて使用することで、投入資材の使用量と所定の収穫量を得るために必要な土地との間のトレードオフを最も低く抑えることができるかもしれない」と言っています。

つまり、要約するとほとんどの農業において、通常の収穫量を得るために必要な化学肥料の大部分を自然に基づいた農法で補うことができ、汚染を引き起こす化学肥料の必要量を減らすことができるということです。これは、過剰に使用している肥料を削減するための確固たる理由となります。

実際、研究者らは、ほとんどの農業において、自然に基づいた農法を使う畑では、1ヘクタールあたり100キログラムの肥料が必要であると計算しています。これは、世界平均の約140キログラムよりはるかに少ない量であり、過剰に使用されている肥料による排出量、地下水汚染や海洋汚染も減少することになります。

研究チームは、世界中で肥料が不均等に配分されていることや、多くの地域では作物を育て、食料安全保障を向上させるために、実際にはより多くの肥料が必要であることも指摘しています。このため今回の研究結果は、肥料をより公平に分配することを正当化するために活用することもできます。過剰に投与されている肥料を削減するために生態的集約化をもっと活用すれば、余剰分を本当に必要な地域に振り分けて、作物を増やすことができます。

研究者らは、「この方法が広く普及すれば、世界の肥料の分配をより公平にすることに貢献できるだろう」と述べています。

出典:MacLaren et. al. “Long-term evidence for ecological intensification as a pathway to sustainable agriculture.” Nature Sustainability. 2022.