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様々な家電製品のコミュニケーションを可能にすることで、エネルギーを驚くほど節約できる可能性がある

研究者らは、家電製品の個々の使用を妨げることなく、エアコン、給湯器、ヒートポンプ周辺全体を調整する巧妙なアルゴリズムを開発しました。

文:Sarah DeWeerdt
2022年11月8日

エアコンが協調して運転を行うよう設定されたアルゴリズムにより、暑い日のピーク電力需要を4分の1以上削減できることが、新しい分析により明らかになりました。

研究チームのメンバーであるインディアナ州ウェストラファイエットにあるパデュー大学の機械工学者、 Kevin Kircher氏は、「今日のエアコン、給湯器、ヒートポンプなどの機器は、電力需要の急増を引き起こし、電線や変圧器、またその他の電気インフラにストレスを与える。ちょっとしたコミュニケーションと制御ロジックの変更で、こうした電力需要の急増を大幅に抑えることができる」と述べています。

また、この方法では利用者は不便に感じることなく節電ができます。これまでは、電力会社がエアコンを止めたり、設定温度を上げたりして利用者にとって不便なトップダウンの節電が主流でしたが、この方法はそれとは違います。

マサチューセッツ州ウェルズリーにあるウェルズリー大学の環境学教授であるJay Turner氏は、「これは本当にエキサイティングな研究だ」と言っています。新しい方法では、ピーク時の需要を「妥協することなく減らすことができる。温度は変わらないが、エアコンやその他の電気器具が他の方法よりも数分早く、または遅く作動するだけだ」と説明しています。

基本的な考え方は以下の通りになっています。(周期的負荷機器と呼ばれる)温度設定値を維持する機器は、近くにある他の機器から、どれだけ緊急に稼働する必要があるかという情報を処理します。そして、優先順位の低い機器、つまり温度設定値に最も近い機器は、電力負荷の合計が所定の閾値以下になるまで電源を切ります。

Kircher氏と彼の同僚は、IEEE Transactions on Power Delivery誌に掲載された論文で、これらの周期的負荷機器のオン・オフを管理する一連のアルゴリズムについて説明しています。

彼らは この方法の主な利点として、情報を中央で調整する必要がないため、ハッキングのリスクを軽減できることだと指摘しています。

このシステムを導入するには、エアコンなどの設計に若干の工夫が必要となります。「理想的なのは、メーカーが工場の現場で通信と制御の機能を組み込むことだ」とKircherは言います。「新しい機械をプラグに差し込むだけで、周辺の通信ネットワークと繋がり、周辺の機械と動作を調整し始めることができる。」また、公平性を確保するために異なるメーカーが同じ優先順位に合意することが重要であると、彼は付け加えています。

研究者たちは、この方法が実世界でどのような違いをもたらすかを測るため、2020年8月に州全体に計画停電をもたらしたカリフォルニア州サクラメントで起きた猛暑の際に、この方法が使われていたらどうなっていたかということをモデル化しました。その結果、各機器がサーモスタットの指令に従うだけのシステムと比較して、優先制御システムはピーク時の電力需要を28%削減できることがわかりました。

さらに長いシミュレーションも実施しましたが、同様の結果が得られました。この新しいアプローチでは、温度のコントロールを犠牲にすることなく、理論上達成可能な最大限のピーク電力需要の削減を本質的に実現することができるのです。

新しいアプローチでは、全体の電力使用量は現在のアプローチとほぼ同じになります。しかし、ピーク時の需要を減らすことは大きな意味があるとTurner 氏は言います。「ピーク時の需要は電力網にとって最悪のシナリオだ。電力網は、年に数回しかないピーク時の需要に対応できるよう私たちは多くの投資をしている。ピーク時の需要が減れば、インフラと発電コストの両方が大幅に削減されることになる」と指摘しています。

家庭の電化が進めば、ヒートポンプや車の充電、給湯器など、送電網からの電力供給を必要とする機器が何千台も増えることになります。「この研究は、これらの家電製品の通信を可能にすることで、ピーク時の需要を大幅に削減し、送電網への必要な投資を削減できることを示している」とTurner氏は言います。

また研究者らは、アルゴリズムが温度設定値に基づいて優先順位をつけるのではなく、稼働時間で優先順位をつけることも可能であることを示しました。これにより、機器間の通信に必要な帯域を最低限に抑え、電力線そのものを利用して通信できる可能性もあります。

この方法は主に、大きなアパートや数百台の機械が連結されたホテルのような規模に適用できます。大規模な送電網では、Kircher氏が「少し難解」と説明する統計上の理由により、近隣の電力需要の急増を引き起こすような、偶然に多数のデバイスが同時に起動する状況は平滑化される傾向があります。「電力需要のピークは、都市や州、地域といった規模でも問題になるが、そのような規模では別の手段が必要だ。エネルギー貯蔵はそのための良い選択肢となる」とKircher氏は指摘します。

次のステップは、このシステムが実社会でどのように機能するか確認することです。Kircher氏は「これらの方法が実地試験で使われるのを見たい。私の共同研究者たちは、研究室と20階建てのアパートでこの技術の一部をテストしたが、徹底した試験が実施されれば素晴らしいと思う」と述べています。

出典: Kircher K.J. et al.  “Distributed peak shaving for small aggregations of cyclic loads.” IEEE Transactions on Power Delivery 2022.