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生物多様性の減少が我々の健康を脅かす

科学者らによる新たな世界的な分析により、どの環境要因が最も感染症を増加させたり、減少させたりするのかがわかりました。その明確な答えのひとつは、生物多様性の損失でした。

文:Warren Cornwall
2024年5月15日

COVID-19のパンデミックが2020年に世界を駆け巡ったとき、環境破壊が疾病の発生を引き起こす可能性があることが注目されました。科学者たちは、野生動物から人間へと伝染したと多くの科学者が考えている病気の発生に、都市化、生息地の喪失、生きた動物の取引が関与している可能性を指摘しました。

これらすべての要因が今回のパンデミックに影響を与えたかもしれませんが、環境破壊が感染症を増加させる主な原因ではありません。生物多様性の損失、地球温暖化、そして外来種の蔓延が最大の要因であることが、世界中の研究を網羅した新しい分析でわかったのです。

「疾病対策は部分的に空回りしていたため、どの世界的変化の要因が最も感染を蔓延させたのか、または感染を減らしたのかはわからない」とこの研究を率いたノートルダム大学の感染症生態学者Jason Rohr氏は言っています。

個々のアウトブレイクに関する研究は、森林伐採狩猟と、アフリカの一部におけるエボラ出血熱の致命的な蔓延などの、急速に変化する世界との関連を掘り下げてきました。科学者たちはまた、気候変動のような問題と多くの疾病との関連も明らかにしてきました。

科学者が、生物多様性の減少、気候変動、化学汚染、生息地の喪失、外来種の蔓延など、今日の環境を変えている主要な要因による病気への影響を比較し、どの要因が一番影響があるのか分析したのは、今回が初めてです。

このような膨大なテーマに取り組むために、研究者たちは何百人もの科学者の研究を参考にしました。Rohr氏と彼の共同研究者たちは、これらの環境要因の少なくとも1つの影響と、ヒトと他の生物の両方に影響を及ぼす病気との関連を評価した972の研究を集めました。そして、それぞれの研究で関連性が認められたかどうか、またその関連性はどの程度強いかを分析しました。

生物多様性の喪失、外来種、気候変動が、疾病の増加と最も強く関連する3つの環境問題として出てきました。中でも生物多様性の損失は際立っていました。生物多様性の喪失は、外来種よりも65%、気候変動よりも111%も疾病の増加と関連していると、科学者たちは『ネイチャー』誌に報告しています。

では、生物多様性と感染症はどのように関係しているのでしょうか?重要な要因は、生物多様性の損失が病気を媒介する種の生息数を変化させることだとRohr氏は指摘します。寄生虫にとって、より多く生息する種を狙うことは進化的に有利であり、一方、あまり一般的でない種は寄生虫に対する抵抗力が強いことが多くあります。希少種がいなくなると、より一般的な種が取り残され、数を増やす可能性があります。その典型的な例がライム病の媒介種であるシロアシネズミだとRohr氏は言います。

この現象は、「生物多様性の損失が感染症を増加させる、よく知られたメカニズムである」と、Rohr氏は電子メールでの回答に書いています。

一方、気候変動はさまざまな環境において広く影響を及ぼし、特定の状況だけに限定されないことがわかりました。「気候変動に文脈依存性がないことから、気候変動に伴う疾病の増加は、一貫して広範に及ぶことが示唆される」とRohr氏は言います。

しかし、すべての環境破壊が疾病の増加につながるわけではありません。実際、都市の台頭は感染症の減少に繋がりました。これは、都市化によって上下水道の管理など基本的なインフラが改善されたためかもしれないと研究者らは指摘しています。

また、感染症の蔓延に関しては、これらの環境問題に勝るもう一つの要因があることも指摘されています。農村部の生活と貧困の関係は、「地球上で環境感染する感染症の最も強い予測因子である」とRohr氏と共同研究者たちは書いています。

生態学と感染症を研究するスタンフォード大学の科学者、Erin Mordecai氏(本論文の執筆者ではない)は、この論文の結果は、政策立案者や科学者がどこに重点を置くべきかを決めるのに役立つだろうと指摘します。Mordecai氏は、「このエビデンスが、気候変動と生物多様性の損失に対する行動を促進するために、国連の気候変動に関する政府間パネルや生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム報告書などの国際政策に利用されることを願っている」と話しています。

出典:Mahon, et. al. “A meta-analysis on global change drivers and the risk of infectious disease.” Nature. May 8, 2024.
画像:Sekernas/iStock.com