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私たちが考えている以上に世界の漁業は問題を抱えている

政策立案者に助言する科学者らにより乱獲の危険性が過小評価されていることが新たな調査でわかりました。

文:Warren Cornwall
2024年8月28日

世界で食料を確保するために海洋を略奪する傾向が強まる一方で、私たちは持続可能な漁業のレベルがどういうものかまだ分かっていません。

乱獲を防ごうとする役人たちは、特定の魚の個体群の健康状態について過度にバラ色の予測に頼っていることが多く、許可された漁獲レベルが高すぎる危険性が高まっていると科学者たちは学術誌『サイエンス』に報告しました

タスマニア大学(UTAS)の水産学者であり、今回の研究に携わったNils Krueck氏は、「このような問題を世間に知らせることは極めて重要だ。これが改善につながればいい」と言っています。

魚の個体数を推定することは、漁業管理者にとって非常に重要なものの厄介な作業でもあります。特定の海域における人気のある種の魚の全体数は、繁殖能力を維持したままどれだけ多くの魚を捕獲できるか理解するための鍵となります。また、年毎の魚の数を見れば個体数が増えているのか減っているのかがわかり、個体数が激減する前に漁獲量を増やしたり、減らしたりするべきか、関係者に知らせることができます。

しかし、このような個体数の推定を行うのは、海にいる魚の数を知るのと同じくらい難しいことです。漁師や調査船によって網に引き上げられた魚の数は、ほとんど目に見えない非常に大きな世界のほんの一例にすぎません。そして漁業の専門家は、その空白を埋めるために複雑なモデルに頼っています。このモデルには、魚種の繁殖速度から特定の漁具の有効性まで、40以上の変数が含まれます。

では、これらの推定値はどの程度正確なのでしょうか?Krueck氏らは、その正確性を評価するために、世界中の230の異なる漁業における個体数推定値が時間とともにどのように変化し、最新の分析結果を過去の魚の数の推定値に遡及して適用した場合にどのような結果が出たか追跡しました。前提として、複数年にわたり収集されたより多くのデータと、そのデータにより適合するように調整されたモデルによって出る最新の推定値がより正確であると考えられます。

しかし結果は芳しいものではありませんでした。この研究の主執筆者でUTASの海洋生態学者であるGraham Edgar氏は、「海中の魚の数において以前の資源評価は楽観的すぎる」と指摘しています。

3分の2の漁業で、魚の個体数に関する初期推定値が過剰に楽観的であることがわかりました。中には極端なインフレもあり、17%の漁業で50%以上高く、8%以上の漁業で最新推定値の2倍になるものもありました。

このような欠陥によって漁業管理者が差し迫った危機を見過ごす可能性があります。科学者たちは、さらに12の漁業で個体数の推移を調べたところ、繁殖が追いついていない危険性があることを発見しました。さらに11の漁業が個体数崩壊に見舞われ、漁業停止を余儀なくされる悲惨な状況にあることがわかりました。

この過剰な楽観論は、研究者らが「幻の回復」と呼ぶ、乱獲された種が回復の兆しを見せているか否かに関する予測にも影響を及ぼします。これにより管理者が自身の行動の効果について見誤る可能性が出てきます。国連食糧農業機関によって「最大限まで利用されている資源」と分類された漁業のうち、29%は「乱獲」とされるべきであったと研究者らが発見しています。

科学者たちは、これらの欠陥についていくつかの可能性を指摘しています。価値の低い漁業は分析の精度が低い傾向にあり、注目度の低さとデータの不足がモデルの性能を低下させている可能性を示唆しています。また魚の個体数に劇的な影響を与える可能性のある海水温が急速に上昇している地域では、漁業の健全性を過大評価する傾向がありました。

そして、複雑なモデルの不確実性が見落とされたり、結果に対する期待に合うように特定のパラメータが調整された可能性もあります。

この新しい研究により「応用水産学が管理者に正しく助言できていないことが世界的に明らかになった」とドイツのGEOMARヘルムホルツ海洋研究センターのRainer Froese 氏とカナダのブリティッシュ・コロンビア大学のDaniel Pauly氏は論文に付随する論評で書いています(*両氏とも本研究には参加していない)。

この研究結果は、漁業の健全性を測るには、より保守的で単純なアプローチを取るのが良いことを示唆していると2人は書いています。それは、より単純なモデルを使うことや、現在の漁業規模を推定できる数値から低い方を選ぶことなどを含みます。また、漁業管理者は系統的なバイアスの証拠がないか、漁業評価を精査すべきです。

たとえ新しい結果がより厳しいものであったとしても、長い目で見れば、数えるべき魚がまだ海にいる可能性を高めることになります。そして私たちが食べるためにも。

出典:Edgar, et. al. “Stock assessment models overstate sustainability of the world’s fisheries.” Science. Aug. 22, 2024.
画像: nordroden/Adobe Stock