気候対策は食料にとっては逆効果となる可能性も—ただし、この対策をすれば回避できる
オゾン汚染の減少による大気の改善が、世界的な飢餓の急増を防ぐ鍵になる可能性があると科学者らは指摘しています。
文:Emma Bryce
2026年3月27日
気候変動の緩和策は、食料価格の上昇を通じて、予期せず世界の飢餓を悪化させてしまう可能性があります。しかし、気候対策によるオゾン削減の効果を考慮することで、世界の飢餓を最大15%抑制できる可能性があることを新たな研究が示しています。
これまで、気候変動の緩和策が食料供給に与える影響を検討した多くの研究では、このオゾンの削減という部分が見落とされてきました。今回、学術誌『Nature Food』に掲載された研究は、この点に焦点を当てています。
一見すると、気候変動の緩和策が農地に悪影響を及ぼすというのは直感に反するように思えます。そこで研究者たちはその理由を詳しく分析しました。彼らは、作物生産、貿易、価格、食料供給の相互作用をシミュレーションするモデルを用い、さらにそれを6つの将来シナリオに当てはめました。
これには、新たな気候変動対策はなく2050年まで現状のまま進むベースラインシナリオや、炭素税などの対策を導入して、2050年までに気温上昇を1.5℃に抑えるシナリオが含まれています。
分析の結果、1.5℃目標のシナリオでは、炭素削減の気候対策により、熱ストレスの軽減などの効果で作物の収量が増加し、飢餓リスクにさらされる人口はベースラインと比べて500万人減少することが分かりました。しかし一方で、炭素価格の導入などの排出削減に関する対策そのものが、農家の生産コストや土地賃料、さらには食料供給網全体の価格を押し上げる可能性があることがわかりました。これが食料生産を圧迫し供給を減少させ、2050年までに6100万人が飢餓リスクにさらされる可能性があることを研究モデルが示しています。
ただし、この気候の影響には見落とされがちなもう一つの要素があります。炭素価格が本格的に導入され排出量が減少すると、同時にメタンや一酸化窒素、揮発性有機化合物(VOC)といったオゾン生成を促進する物質の排出も減少します。これにより大気中のオゾン濃度が低下し、大気が浄化されることで、作物はより良好に成長できるのです。
実際、このオゾン削減効果だけでも、世界で840万人の飢餓リスクを減少させる可能性があります。これは、気候変動の緩和策による悪影響の約15%を打ち消すことに相当します。
しかし、オゾン削減を考慮したとしても、世界的な飢餓が一気に解決されるわけではありません。モデル分析では、厳格な気候政策を実施することによる大きなトレードオフとして、依然として飢餓の問題が残っています。実際、著者らは、オゾン削減を織り込んだ場合でも、気候変動の緩和策に伴う飢餓リスクは、温暖化によるリスク推計よりも依然として高い水準にとどまる可能性があると述べています。
この研究は、気候対策がもたらす意図しない副作用を浮き彫りにすると同時に、オゾン削減を含む、より包括的な視点によって、そうしたトレードオフの一部を軽減する機会も示しています。
重要な示唆として、政策立案者は食料安全保障を踏まえた、より効果的な気候変動の緩和策を設計し得るという点が挙げられます。また各国は、排出削減と同時に人々を飢餓から守るさまざまな手法を講じることもできます。農業生産性を高める技術の導入、赤身肉からより効率的な植物性タンパク質への転換、食品ロスの大幅削減などを組み合わせることで、排出削減と飢餓対策を同時に進めることができるのです。
出典:Xia, S., Hasegawa, T., Jansakoo, T. et al. “Ozone pollution reduction partially offsets the negative impact of climate change mitigation efforts on global hunger.” Nature Food. 2026.
画像:©Anthropocene Magazine
DATE
April 23, 2026AUTHOR
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