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気候変動を食い止めるには時間がないと現実を伝えてもいいかもしれない

ある調査によると、気候変動対策に残されたタイムリミットについて言及することは絶望をもたらすものではなく、むしろ人々がより意欲的に関連対策を支持することに繋がることがわかりました。

文:Sarah DeWeerdt

2021年9月21日

(Click here for the English version)

急激で壊滅的な気候変動が起こる前に排出量を削減するために残された時間は12年であるという記事を読むと、人々は政府の気候政策を支持する意欲を高めることが新しい研究で明らかになりました。また、タイムリミットを明確にしたメッセージは、気候変動に対する個人および集団による行動の両方が効果的であるという意識を高めるということもわかりました。

今回の研究結果は、気候変動に関するコミュニケーションについての議論に寄与するものであり、気候変動対策の緊急性を表現するのにためらう必要がないことを示唆しています。

この議論は2018年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書が温室効果ガスの排出量を削減するための迅速かつ劇的な行動がなければ、地球温暖化は2030年から2052年の間に1.5℃に達する可能性が高いと報告したことにさかのぼります。このことをメディアは、壊滅的な気候変動を回避するために残された時間は12年しかないと報じました。しかし、IPCC報告書の執筆者を含む科学者たちは、これは報告書を正確に理解していないと反論し、「期限主義」に焦点を当てることで、人々は意欲を失い、気候変動対策は努力する価値がないと結論づけることになると警告しました。

今回の研究では、その心配はないことが示唆されています。本研究の筆頭著者であり、オーランドにあるセントラルフロリダ大学のジャーナリズム助教授であるPatrice Kohl氏は、「意味のある気候変動対策を実施するためにはタイムリミットが迫っているという考えを伝えることは、これまで考えられてきたように必ずしも逆効果ではないかもしれない。むしろ、気候変動対策への人々の支持を高めることにつながるかもしれない」と述べています。

Kohl氏は、ワシントンD.C.にあるOrganizing Empowerment ProjectのリサーチディレクターであるNeil Stenhouse氏とともに、米国の1,023人を対象にオンライン調査を実施しました。参加者は無作為に3つのグループに分けられ、1つのグループは気候変動対策に関して残された時間が12年しかないというタイムリミットを強調する短いニュース記事を読み、もう1つのグループは気候変動対策に関するタイムリミットを否定する記事を読み、最後のコントロールグループ(対照群)はどの記事も読みませんでした。その後、参加者は気候に関する考え方について様々な質問に答えました。

研究者らは、タイムリミットに焦点を当てた記事を読んだ人は対照群の人に比べて、気候変動対策は政府にとって最優先事項であるべきだと答える傾向が強かったと学術誌「Environmental Communication」で報告しています。

一方、タイムリミットに焦点を当てた記事を読んだことは、気候変動について連邦議会議員に連絡を取ったり、気候変動に取り組む団体に寄付をしたり、温室効果ガスの排出を抑制するためにライフスタイルを変えたり、エネルギーにもっと投資するという意思には影響しませんでした。

しかし、タイムリミットに焦点を当てた記事は、人々の気候変動の深刻さに対する認識を高め、個人や集団による行動で変化を起こせるという確信をもたらしました。Kohl氏は「期限主義のメッセージが逆効果であるならば、12年というタイムリミットに関する記事を読んだ人は、自分や集団で気候変動に対して何かできるとは思わず、政治的な支持も減ると予想される。しかし私たちはその逆を発見した」と指摘します。

また、タイムリミットに反対する記事を読んだ人も、対照群に比べて個人や集団による気候変動対策が有効性であると考える傾向が大きくなりました。さらに、期限主義と期限主義ではない(タイムリミットについて言及のない)2つの記事を正面から比較したところ、期限主義ではない記事の方が集団による気候変動対策が有効であると考える傾向が大きくなったことがわかりました。

「参加者がなぜこのような反応を示したのかはわからない。他の研究の結果から、いくつかの可能性が示唆されているので更に研究を重ねていきたい」とKohl氏は言います。

例えば、12年というタイムリミットの短さが気候変動をより個人的な問題として捉えたり、恐怖心を煽ったりして、政府の気候変動対策への支持を高めたという可能性があります。また、タイムリミットに焦点を当てた記事を読んだ人は、対処法として気候変動対策の有効性をより強く信じ、問題を否定することなく心理的に対処できるようになったのかもしれません。

しかし、これは今後の研究でさらに検証する必要があります。今後そのような研究で、気候変動に関する記事で期限主義と期限主義ではないものが、タイムリミットについて言及のない記事と比較して、どのような影響を与えるのかということについて更に検証することができるだろうと研究者らは述べています。

 

出典: Kohl P.A. and N. Stenhouse. “12 Years Left: How a Climate Change Action Deadline Influences Perceptions and Engagement.” Environmental Communication 2021.