Search By Topic

SEARCH BY TOPIC



真の循環型ソリューション:植物から作られたバイオプラスチックが新たな作物を育てるための栄養分に

研究チームは、バイオプラスチックを尿素に変える技術を実証し、肥料を作る際の排出量を削減することに成功しました。

文:Emma Bryce
2021年11月5日
(Click here for the English version)

研究チームは、バイオプラスチックを肥料に変える技術を開発しました。これは、プラスチックの廃棄物と排出量の多い肥料生産という2つの問題に取り組むものです。

化石燃料を原料とする通常のプラスチックとは異なり、バイオプラスチックは、トウモロコシ、小麦、農業廃棄物などの再生可能な原料を用いて製造されます。化石燃料を使用しないため、排出量が少ないのが特徴です。しかし、従来のプラスチックと同様に、製造工程で高い耐久性を実現しているため、自然界では分解されにくいという特徴があります。つまり、バイオプラスチックは環境に優しい素材であるにもかかわらず、環境を汚染したり、寿命の長い汚染性の高いマイクロファイバーを海に流したりする可能性があるのです。

しかし、Green Chemistry誌に掲載された研究者らの報告によると、この問題を解決し、さらには、より環境負荷の低いバイオプラスチックに移行する理由を与える解決策があると指摘しています。研究チームは、化石燃料を使用するプラスチックに代わって、広く普及しているポリイソソルビドカーボネートというバイオプラスチックに着目して調査を実施しました。このバイオベースのポリマーは、グルコースを原料とし、そこからモノマーを生成し、カーボネート結合で結合させたものです。このため通常は分解に時間がかかる硬い構造になっています。

しかし研究者らは、アンモニアを加えて炭酸結合を切断することが必要となるプロセスであるバイオプラスチックのケミカルリサイクルで、窒素を多く含む尿素という非常に有用な副産物が得られることを発見しました。

尿素は多くの化学肥料の主成分であり、その製造には通常、非常に高い温度と圧力が必要であると、今回の研究の著者の一人である東京工業大学の化学工学者、青木大輔氏は説明しています。実際、尿素の工業生産はエネルギーを多く使い、世界の年間排出量の2%を占めています。

一方、今回の研究では、尿素を副産物として生成することで、「CO2を全く排出しない」と青木氏は指摘しています。植物から作られたバイオプラスチックは、基本的な成分に分解され、新たな作物を育てるための栄養分になるという、まさに循環型のソリューションを提示しています。さらに、プラスチックをより早く環境から取り除き、肥料による汚染を減らすことができるという利点もあります。

しかもそれだけではなく、研究者らは生成された尿素の品質を検証したいと考え、植物に与えました。その結果、尿素を豊富に含んだバイオプラスチックのリサイクル溶液を、植物研究によく使われるモデル植物であるシロイヌナズナ

の苗に与えたところ、尿素だけの溶液を与えた場合に比べて、苗の生育が格段に良くなったのです。これは、リサイクルされたバイオプラスチックが作物の肥料として再利用できることを示唆しています。

この新しい循環型アプローチが、産業界が従来の化石燃料由来のプラスチックから、再生可能な植物由来のバイオプラスチックへ移行するための後押しになることを研究者らは期待しています。従来のプラスチックは、炭素と炭素が強力に結合してできており、自然界ではほとんど分解できない緻密な構造を持っています。そのため、従来のプラスチックは何十年、何百年も環境中に存在し続けるのです。

そのため、環境への負荷が大きく、企業はその責任を問われています。しかし、このバイオプラスチックの廃棄物のエンド・オブ・ライフ(EOL)という魅力的な解決策を提供することで、「この発見は、市場に出回る(従来の)プラスチックの比率を変えるかもしれない」と青木氏は期待しています。

さらに、農業にかかるコストを削減し、農業が抱える膨大な排出量の削減にも繋がり、より多くの食料を生産することができるかもしれない、と研究者らは指摘しています。「今回の研究は、近い将来、持続可能でリサイクル可能なポリマー材料を開発するためのマイルストーンになると確信している。「プラスチックからのパン」の時代はすぐそこまで来ている」と言っています。

出典:Otsuka et. al. “Plastics to fertilizers: chemical recycling of a bio-based polycarbonate as a fertilizer source.” Green Chemistry. 2021.