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食品廃棄物とファッションによる汚染に挑む科学者たちー真菌を使った人工のコットンとレザーの製造

パンを食べる菌の胞子が作り出した天然繊維は、綿やレザーを再現するように加工でき、従来の素材よりもはるかに少ない水とエネルギーで作ることができます。

文:Prachi Patel
2022年3月24日

ファッションによる最大の過ちは環境に与える影響でしょう。国連環境計画(UNEP)は、ファッション産業は世界の二酸化炭素排出量の10%を占め、水の消費量も2番目に多いと報告しています。

スウェーデンのボロース大学の研究者らは、より環境に配慮したファッションを実現するため、菌類に着目しました。この研究チームは、パンを食べる菌を活用し、食品廃棄物をレザーや綿、紙のような見た目の素材に変換したのです。

米国化学会(American Chemical Society)の春季大会で発表されたこの研究は、食品廃棄物とファッション産業による汚染によって大きな影響を受ける環境に対処するための革新的な解決策となります。この菌類を使った素材は、食品廃棄物を経済的に活用できるほか、従来の素材に比べて水やエネルギーの使用量がはるかに少なく、製造も短時間で済むといいます。

人間が消費するために生産される食料の約3分の1は廃棄され、埋立地で腐敗することで温室効果ガスを排出します。

この廃棄物を利用するために、バイオテクノロジストのAkram Zamani氏とその同僚は、腐敗した食品に付着して成長する糸状菌リゾプスデレマーに注目しました。彼らはスーパーマーケットから古いパンを集め、乾燥させ、砕いてパン粉にしました。そしてそのパン粉と菌の胞子を水の中で混ぜ合わせ、小型の反応器(リアクター)に入れました。

すると、パンを食べた菌は、キチンやキトサンというアミノ多糖類からなる微細な天然繊維を作り出したのです。この繊維は菌の細胞壁の中に蓄積されました。2日後に細胞を回収し、動物の飼料に使える可能性があるという脂肪分とタンパク質を取り除きました。その結果、繊維状の細胞壁を含むゼリー状の残留物が残りました。

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研究チームはこの残留物を紡いで糸にしました。これは衣服に織り込んだり、医療用縫合糸に利用したりすることができる可能性があります。また、この繊維をグリセロールで処理することで、より強くより柔軟な繊維にしました。さらに研究者らはゼリーを広げて乾燥させ、紙のような素材を作り、本物の動物の革に近い素材を作るために、厚めの層を作り、樹木由来のタンニンで処理して柔らかさを出しました。

菌類から革を作るのは、Zamani氏のチームが初めてではありません。カリフォルニア州のMycoworks社のように、キノコから作られた持続可能なビーガンレザーのような代替品は、すでにいくつか市場に出回っています。

これらの素材がどのように作られるのか、詳細はほとんど明らかにされていません。しかし、通常、市販品は収穫したキノコや、生ゴミやおがくずの上に薄い層を作って育てた菌類から作られているとプレスリリースで述べています。その発酵プロセスは時間がかかり、数日から数週間かかりますが、この研究チームの反応器では同量の菌類をわずか2、3日で生産することができます。

他のいくつかの菌類レザーとは異なり、この新しいレザーには合成層や環境に有害なコーティング剤、化学物質が含まれていません。さらに、密度や硬さなどの機械的性質は、動物性レザーに非常に近いことが試験で確認されています。

「綿や合成繊維、動物性レザーといった、環境面や倫理面でマイナスな要素を持つ素材の代わりになれれば」とZamani氏は語っています。

出典: Ghasem Mohammadkhani et al. Sustainable fungal textiles and paper-like materials from food waste. ACS Spring 2022.