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新しく開発された大腸菌が廃水から電気を生み出す

微生物を動力源とする新たなデバイスで廃水処理装置を改良する過程で、エンジニアらが一般的なバクテリアを用いて電力を作り出すことに成功しました。

文:Prachi Patel
2023年9月14日

研究者らは一般的な微生物である大腸菌に遺伝子操作を行い、廃水を含む幅広い一般的な資源から電気を生産させることに成功しました。Jouleで発表されたこの研究結果は、廃水処理のプロセスにエネルギー生産という価値を加える可能性があります。

従来の廃水処理施設は大量のエネルギーを消費し、温室効果ガスの約3%を排出しています。バクテリアを使って廃水を電気に変換する技術は、環境への影響を軽減する可能性があります。

「私たちの技術は、一般的な微生物である大腸菌を利用しているため、世界中のどこでも、さまざまな廃棄物を利用して、この技術を応用することができる」とスイスのローザンヌ工科大学(EPFL)応用科学・工学研究所(Institute of Chemical Sciences and Engineering)のArdemis Boghossian教授は言います。

さらに、この発見は「バイオエレクトロニクスにとって重要な意味を持つ。生きた微生物から電力を供給する電子機器を作ることができ、その用途はほぼ無限大である」と指摘します。

バクテリアは有機物(炭素を含む化合物)を分解して他の化学物質に変えることができます。科学者らは、このバクテリアの能力を利用して、人間の排泄物を燃料に変えたり、糖を消化して燃料や薬物、ナイロンなどのプラスチック構成要素を作ることができる特殊なタイプの微生物を設計したりしています。

微生物のなかには、有機物を消費して自然に電気を作り出すものもあります。しかしBoghossian教授は、それは特定の化学物質がないとできないと指摘します。研究者らは、微生物燃料電池と呼ばれる電池のような装置を作ることで、バクテリアを利用して電気を作り出そうとしてきました。

「微生物燃料電池は、バクテリアから電気を取り出すために電極を使う。電極とバクテリアの間の界面を最適化することが、この技術の性能を最大化する鍵となる」と教授は言います。これまでの研究では、この界面を最適化するために電極の工学的設計に焦点が当てられていましたが、Boghossian教授らはバクテリアの工学的設計に焦点を当てました。

EPFLの研究者らは、発電能力を持つ微生物であるShewanella oneidensis MR-1の遺伝子を大腸菌に導入しました。これにより大腸菌は細胞内から外部環境に電子を移動させて電気を生産できるようになりました。

大腸菌にはさまざまな種類があります。その中には、人や動物の腸内に生息する無害なものから、食品を通して摂取すると病気を引き起こすものもあります。大腸菌はまた、世界で最も広く研究されている微生物のひとつでもあります。

他の発電する微生物とは異なり、今回遺伝子改変された大腸菌は、様々な有機物を触媒を用いずに分解して発電することができました。研究チームが地元のビール工場から回収した廃水を使ったテストでは、従来の微生物は生存することができませんでしたが、この大腸菌は繁栄することができました。

Boghossian教授は、今回開発されたバクテリアは、すでに多くの廃水プラントで使用されている微生物燃料電池との補完性が高いため、この技術の実用化は現実的な次のステップとなると言います。

既存の微生物燃料電池は、発電効率の悪いバクテリアや、限られた資源からしか発電できないバクテリアに依存しています。Boghossian教授は、新しいバクテリアを加えることで発電量を増やすことができると言います。「廃棄物から電気を作るのに理想的な技術を作るには、最終的には人工バクテリアと電極の両方にアプローチする必要がある」と指摘しています。

出典: Mohammed Mouhib et al. Extracellular electron transfer pathways to enhance the electroactivity of modified Escherichia coli. Joule, 2023.