環境に優しいナイロンを技術者らが開発中
電気化学とバクテリアを組み合わせて、あるチームが植物廃棄物からナイロンの構成要素を作り出しました。その過程ではエネルギー使用と温室効果ガスの排出も削減されています。
文:Prachi Patel
2023年7月13日
世界では毎年200万トン以上のナイロンが生産されています。衣服、ロープ、漁網、パラシュートなどに使われるこのナイロンは、現在、膨大なエネルギーを使って石油由来の原料から作られています。
そこで、この問題への取り組みとして、研究者らはナイロンの主要な構成要素を植物由来の原料から作る方法を開発したと報告しています。Green Chemistry誌で報告されたこの方法は、低エネルギーの化学プロセスとバクテリアによる化学物質の変換を組み合わせたもので、ナイロン製造のエネルギー使用量と温室効果ガス排出量を削減できる可能性があります。
ナイロンは2つの化学成分を50対50で混合したものです。そのひとつがアジピン酸で、石油由来のフェノールを使って2段階の化学プロセスで作られます。第1段階は高温と刺激性の強い化学薬品を必要とするエネルギー集約型のプロセスで、フェノールをシクロヘキサノールに変換します。第2段階は、シクロヘキサノールをアジピン酸に変換する工程で、笑気ガスとしても知られる亜酸化窒素を大量に放出します。亜酸化窒素は二酸化炭素より温室効果係数が300倍も強い温室効果ガスであり、それに加えて大気中のオゾン層を破壊します。
ドイツのヘルムホルツ環境研究センターとライプツィヒ大学の研究チームは、ナイロンの生産工程全体を環境に優しいものにしたいと考えました。「バイオ由来の廃棄物を原料として利用し、合成プロセスを持続可能なものにすれば可能だ」と、電気生物工学のFalk Harnisch教授は指摘します。
研究者らはまず、化石由来のフェノールを生物由来のフェノール類に置き換えることから始めました。これはリグニンに由来するカテコールやグアイアコールといった化学物質で、植物に強度を与える繊維状の成分で、パルプ・製紙産業の廃棄物となるものです。
これらのバイオベースのフェノール類をシクロヘキサノールに変換するために、従来のように熱と水素を使うのではなく、電気と特殊な炭素ベースの触媒を使用します。これにより、エネルギー使用量が削減され、再生可能エネルギーを用いることも可能です。このプロセスでは、化学物質の70%以上がシクロヘキサノールに変換されます。そして研究チームは、シュードモナス・タイワンエンシス(Pseudomonas taiwanensis)というバクテリアを使って、シクロヘキサノールをアジピン酸に変換します。
この工程にかかる時間は22時間で、リグニン由来のフェノール類からアジピン酸までの収率は57%です。
今年初め、アパレル企業のルルレモン(Lululemon)は植物由来のナイロンでできたシャツの販売を開始しました。バイオテクノロジー企業のジェノ社(Geno)は、バクテリアを使ってグルコースやスクロースなどの植物性糖類を発酵させ、ナイロンを製造しています。「この植物由来の原料は、人間との食料の奪い合いや、飼料や土地利用の対立を生むかもしれない」とHarnisch教授は指摘します。
廃棄物であるリグニンを使えば、より持続可能です。2020年、エディンバラ大学の研究者らは、バクテリアを使ってリグニン由来のグアイアコールを直接アジピン酸に変換する方法について報告しました。ライプツィヒのチームのプロセスは、この方法より、より迅速で収率も高いものです。
しかしながら、これはまだ初期段階の実証であり、このバイオベースのナイロンが市場向けに十分な規模で製造されるようになるには、まだ長い道のりがあります。現在、研究者らはミリリットル単位の溶液を使用しています。Harnisch教授によると、研究チームは学術界や産業界の他の研究者たちと連携し、バイオベースナイロンの製造にスケールアップできるような改良型リアクターのプロトタイプを作りたいと考えているということです。
出典: Micjel Chávez Morejón et al. Integrated electrosynthesis and biosynthesis for the production of adipic acid from lignin-derived phenols. Green Chemistry, 2023.
DATE
October 27, 2023AUTHOR
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