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Future Earth
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環境に優しいナイロンを技術者らが開発中

電気化学とバクテリアを組み合わせて、あるチームが植物廃棄物からナイロンの構成要素を作り出しました。その過程ではエネルギー使用と温室効果ガスの排出も削減されています。 文:Prachi Patel 2023年7月13日 世界では毎年200万トン以上のナイロンが生産されています。衣服、ロープ、漁網、パラシュートなどに使われるこのナイロンは、現在、膨大なエネルギーを使って石油由来の原料から作られています。 そこで、この問題への取り組みとして、研究者らはナイロンの主要な構成要素を植物由来の原料から作る方法を開発したと報告しています。Green Chemistry誌で報告されたこの方法は、低エネルギーの化学プロセスとバクテリアによる化学物質の変換を組み合わせたもので、ナイロン製造のエネルギー使用量と温室効果ガス排出量を削減できる可能性があります。 ナイロンは2つの化学成分を50対50で混合したものです。そのひとつがアジピン酸で、石油由来のフェノールを使って2段階の化学プロセスで作られます。第1段階は高温と刺激性の強い化学薬品を必要とするエネルギー集約型のプロセスで、フェノールをシクロヘキサノールに変換します。第2段階は、シクロヘキサノールをアジピン酸に変換する工程で、笑気ガスとしても知られる亜酸化窒素を大量に放出します。亜酸化窒素は二酸化炭素より温室効果係数が300倍も強い温室効果ガスであり、それに加えて大気中のオゾン層を破壊します。 ドイツのヘルムホルツ環境研究センターとライプツィヒ大学の研究チームは、ナイロンの生産工程全体を環境に優しいものにしたいと考えました。「バイオ由来の廃棄物を原料として利用し、合成プロセスを持続可能なものにすれば可能だ」と、電気生物工学のFalk Harnisch教授は指摘します。 研究者らはまず、化石由来のフェノールを生物由来のフェノール類に置き換えることから始めました。これはリグニンに由来するカテコールやグアイアコールといった化学物質で、植物に強度を与える繊維状の成分で、パルプ・製紙産業の廃棄物となるものです。 これらのバイオベースのフェノール類をシクロヘキサノールに変換するために、従来のように熱と水素を使うのではなく、電気と特殊な炭素ベースの触媒を使用します。これにより、エネルギー使用量が削減され、再生可能エネルギーを用いることも可能です。このプロセスでは、化学物質の70%以上がシクロヘキサノールに変換されます。そして研究チームは、シュードモナス・タイワンエンシス(Pseudomonas taiwanensis)というバクテリアを使って、シクロヘキサノールをアジピン酸に変換します。 この工程にかかる時間は22時間で、リグニン由来のフェノール類からアジピン酸までの収率は57%です。 今年初め、アパレル企業のルルレモン(Lululemon)は植物由来のナイロンでできたシャツの販売を開始しました。バイオテクノロジー企業のジェノ社(Geno)は、バクテリアを使ってグルコースやスクロースなどの植物性糖類を発酵させ、ナイロンを製造しています。「この植物由来の原料は、人間との食料の奪い合いや、飼料や土地利用の対立を生むかもしれない」とHarnisch教授は指摘します。…

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新しく開発された大腸菌が廃水から電気を生み出す

微生物を動力源とする新たなデバイスで廃水処理装置を改良する過程で、エンジニアらが一般的なバクテリアを用いて電力を作り出すことに成功しました。 文:Prachi Patel 2023年9月14日 研究者らは一般的な微生物である大腸菌に遺伝子操作を行い、廃水を含む幅広い一般的な資源から電気を生産させることに成功しました。Joule誌で発表されたこの研究結果は、廃水処理のプロセスにエネルギー生産という価値を加える可能性があります。 従来の廃水処理施設は大量のエネルギーを消費し、温室効果ガスの約3%を排出しています。バクテリアを使って廃水を電気に変換する技術は、環境への影響を軽減する可能性があります。 「私たちの技術は、一般的な微生物である大腸菌を利用しているため、世界中のどこでも、さまざまな廃棄物を利用して、この技術を応用することができる」とスイスのローザンヌ工科大学(EPFL)応用科学・工学研究所(Institute of Chemical Sciences and Engineering)のArdemis Boghossian教授は言います。 さらに、この発見は「バイオエレクトロニクスにとって重要な意味を持つ。生きた微生物から電力を供給する電子機器を作ることができ、その用途はほぼ無限大である」と指摘します。 バクテリアは有機物(炭素を含む化合物)を分解して他の化学物質に変えることができます。科学者らは、このバクテリアの能力を利用して、人間の排泄物を燃料に変えたり、糖を消化して燃料や薬物、ナイロンなどのプラスチックの構成要素を作ることができる特殊なタイプの微生物を設計したりしています。…

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海水中でプラスチックを分解する海洋バクテリアを世界で初めて開発

研究チームは2種のバクテリアの主要な形質を組み合わせることで、塩分の多い条件下かつ室温でプラスチックを分解できる新しいバクテリアを作り出しました。 文:Prachi Patel 2023年9月21日 毎年1,400万トン以上のプラスチックごみが海に流れ着き、それを食べた何千もの動物や鳥が命を落としています。多くは巨大なゴミの塊となり、時間の経過とともに海洋生物に有害な微細な破片に分解されています。 この海洋プラスチック汚染問題にとって希望の光となる新しい研究が発表されました。ノースカロライナ州立大学の研究者らが、海水中で一般的に使用されているプラスチックを分解する海洋微生物を遺伝子工学的に操作したと、AIChE Journal誌に報告しています。 ポリエチレンテレフタレート(PET)は、ペットボトルや食品包装、衣料品などに使用されるプラスチックの一種です。多くのPETプラスチック廃棄物はリサイクルされず、埋立地や水生環境に行き着きます。PETは最終的に回収の難しい5mm以下のマイクロプラスチックに分解され、水中、陸上、大気中の環境を素早く移動することが示されている、と研究者たちは論文で指摘しています。 プラスチックを分解する能力を持つ微生物も見つかっています。研究者らは、プラスチック廃棄物を有用な化学物質に変換するためにバクテリアが産生する酵素あるいはバクテリアを遺伝子操作しました。ノースカロライナ州立大学の研究チームは、このような以前に改良された生物には、「高濃度の塩分によって成長が阻害される」という重要な限界があると書いています。これはマイクロプラスチックを分解する前に大量の水を用いて回収し、洗い流さなければならないことを意味しています。 そこで研究チームは、2つの異なる種類のバクテリアを利用するという違うアプローチを取りました。一つ目のバクテリアはビブリオ・ナトリエゲンスというもので、海水に生息し、理想的な条件下では10分以内にその数が2倍になるという繁殖が非常に早いものです。もうひとつはイデオネラ・サカイエンシスというバクテリアで、PETを分解する酵素を生産するものです。 研究チームは、この酵素を生産するイデオネラ・サカイエンシスのDNA配列を単離し、ビブリオ・ナトリエゲンスに挿入しました。するとこの改変されたビブリオ・ナトリエゲンスは、細胞の表面でPETを分解する酵素を産生することができました。さらに、ビブリオ・ナトリエゲンスは室温の塩水環境でPETを構成要素に分解できることもわかりました。 「実用的な観点からは、これは海水中でPETマイクロプラスチックを分解することができる、我々が知る限り初めての遺伝子組み換え生物だ」と、博士課程の学生で論文の筆頭著者であるTianyu Li氏はプレスリリースで述べています。さらに、「海からプラスチックを取り出し、高濃度の塩分を洗い流してからプラスチックを分解するためのプロセスを開始することは経済的に実行可能ではないため、これは重要な発見である」と指摘します。 研究者らは、まだやるべきことはたくさんあると言っています。研究チームは現在、ビブリオ・ナトリエゲンスを改良して、PETを分解する際に生じる副産物を餌にできるようにし、最終的に有用な化学分子を生産することを計画しています。 出典:…

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研究により野生動物が炭素の方程式に関係していることが判明

カワウソ、オオカミ、クジラ、魚など生態系を形成する生物の個体数を回復させると年間64億トンという驚異的なCO2を回収することができます。 文:Warren Cornwall 2023年3月29日 自然破壊が気候変動の原因であると言われるとき、チェーンソーや火災で破壊された熱帯雨林を思い浮かべる人が多いでしょう。Oswald Schmitz氏は、それとは異なる「野生動物:ヌー」に着目してみました。 気候危機の原因や解決策について議論する時、自然界のシステムに関しては植物を中心として議論することが多くあります。空気中のCO2を吸い上げ、木々や緑に変えてくれる植物を最初に思い浮かべるのは理にかなっていることです。 しかし、イェール大学の生態学者であるSchmitz氏は、動物も炭素の方程式の一部であることをあまり知られていないと考え、長年にわたって人々にこのことを伝える活動を続けてきました。10年前、彼は人々にこのことを知ってもらうため「炭素循環のアニメ化」という言葉を作ることに貢献しました。 そして今、彼は『Nature Climate Change』誌に、野生動物を本来の生息地に戻すこと(「リワイルディング(rewilding)」と呼ばれる)で私たちの余剰の炭素(Carbon Surplus)を大幅に減少させることができると書いています。 米国、カナダ、ヨーロッパ、南アフリカの科学者とともにこの論文を執筆したSchmitz氏は、「野生動物種は、環境との相互作用を通じて生物多様性と気候をつなぐミッシングリンクとなる」と指摘しています。 例えば、ヌーを見てみると、箱形の頭、上向きの角、ほっそりとした後半身は、まるでダイエット中のバイソンのようです。現在、100万頭以上のヌーがアフリカのサバンナを駆け巡り、草をヌーのウンチに変えながら暮らしています。しかし、20世紀初頭では事態はもっと悲惨なものでした。家畜が持ち込んだ病気によって、その数は30万頭にまで激減したのです。移動する群の数が減ることで草が伸び放題になり、山火事が発生し、その煙が大気中の炭素を増加させました。 その結果、セレンゲティ(タンザニアの平原)は、排出する炭素よりも吸収する炭素の方が多い炭素吸収源から炭素供給源に変わったと科学者は推測しています。現在では、病気が根絶され、ヌーの群れが戻ってきたことで、この草原は再び炭素を吸収する”スポンジ”となり、ヌーの数が最も少なかった頃よりも最大で440万トンのCO2を吸収しています。…

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空気から直接回収するよりも 海からCO2を回収する方が効率的

エンジニアは、海水から温室効果ガスを取り出すためのエレガントでシンプルな新システムを考案しました。膜も化学物質もなく、必要なエネルギーも大幅に削減されます。 文:Prachi Patel 2023年2月23日 海は、大気中に放出された二酸化炭素の約3分の1を吸収し、世界最大の炭素貯蔵庫となっています。そして今、研究者らは、環境中の有害な温室効果ガスの総量を減らすために、海から二酸化炭素を除去する方法を考え出しました。 この方法は、高価な膜や化学物質を必要としないため容易に導入できると、MITのエンジニアはEnergy & Environmental Science誌に報告しています。また、空気中の炭素を直接回収する方法など、他の炭素回収技術に比べ、必要なエネルギーも少なくて済みます。さらに、研究者らの予備的な分析によると、この海における回収システムは経済的に実現可能であることが示唆されています。 海はここ数十年、二酸化炭素を吸収して酸性化しています。この酸性化はサンゴ礁を破壊し、貝類やその他の海洋生物に害を与えます。海から二酸化炭素を除去すれば、酸性化が緩和されるだけでなく、大気中の二酸化炭素の濃度を下げることもできます。なぜなら、二酸化炭素を除去した海は、大気中の二酸化炭素をより多く吸収し続けるからです。 研究者らは、それに加えて海水中の二酸化炭素の濃度は大気中の100倍以上だと指摘しています。そのため、海から二酸化炭素を除去する方法は、世界的に徐々に普及しつつある大気中の二酸化炭素を直接吸収する方法よりも、コストとエネルギー消費量が少なくて済むはずです。 海水から二酸化炭素を除去する既存の方法は、膜や化学物質を必要とするため、プロセスが複雑で高価なものとなっています。MITのT. Alan Hatton氏とKripa Varanasi氏らは、これらの材料の使用を避けたいと考えていました。…

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集中させた太陽光で安価なソーラー水素が身近なものに

従来の太陽熱を利用した水素製造装置の100分の1の大きさで、3倍以上の効率を持つ装置を研究者が開発しました。 文:Prachi Patel 2023年1月19日 太陽光を使って水を水素と酸素に分解することは、自動車、トラック、船舶で使われる排出量ゼロの水素燃料を製造するには最も環境に優しい方法です。今回、これまでに報告された方法よりもはるかに効率よく太陽光を使って水を分解できる装置がNature誌に報告されました。 この装置は、従来の装置の100分の1の大きさで、ソーラー水素のコストを削減し、淡水と海水の両方から水素を製造する実用的な方法を示すものです。「主な課題は、太陽光と淡水または海水から直接水素を製造する効率に関するボトルネックを克服することだった」と、この研究を主導したミシガン大学電気・コンピューター工学科(electrical and computer engineering)のZetian Mi教授は述べています。 植物は太陽光を吸収し、そのエネルギーを使って水を分解する能力に優れています。科学者らは光合成を真似て、水から水素燃料を作るために、さまざまな技術を使って試行錯誤してきました。その一つの例は、太陽光を吸収して電気を発生させ、電池のような電気化学セルで水を分解する特殊な半導体材料に依存するものです。しかし、この方法には腐食性の電解質が必要で、環境にはやさしくありません。 より直接的な方法としては、半導体触媒を使い、太陽からのエネルギーを受けて水の分解反応を起こす方法があります。しかし、このような光触媒システムで太陽熱から水素へ変換する効率は、これまでのところかなり低く、最高でも3%未満にしかなりません。 Mi教授らは、2つの方法でこの効率を高める方法を発見しました。1つは集中させた太陽光を利用することです。もうひとつは、従来の触媒では使われなかった、より波長の高い可視光や熱を生み出す赤外線を利用することです。 より多くの太陽光を利用するための鍵となるのは、シリコンウエハー上に成長させた窒化インジウムガリウムのナノワイヤという触媒です。従来の触媒は太陽光が集中すると分解してしまいますが、ナノワイヤは自己修復性があり、時間が経つにつれて水素生成の効率が向上します。また、ナノワイヤは非常に広いスペクトルの太陽光を吸収することができます。そして水の分解反応を起こすために、より波長の高い可視光線を吸収します。 また、赤外線を吸収することで反応が促進され、水素と酸素が分離しやすくなるため、効率が上がります。…

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化学産業の脱炭素化を実現する人工バクテリア

「糖を加え、あとは細胞に任せるのみ」で医薬品や燃料の製造における排出量を少なくすることができます。 文:Prachi Patel 2023年5月18日 バクテリアが、気候変動への対策として小さくとも強力な力になる可能性があることが新しい研究でわかりました。本研究で研究者らは、燃料、医薬品、工業用化学製品を作るための原料として使用される炭素ベースの化学物質を生産する微生物を操作しました。 Nature誌に掲載されたこの研究は、従来の方法よりも低いカーボンフットプリントとコストで、これらの重要な製品を持続可能な方法で生産する方法を示しています。 現在、温室効果ガス排出量の約半分は、化学製品、鉄鋼、セメントの生産に起因しています。地球温暖化を産業革命以前の水準から1.5℃に抑えるには、これらの大きな産業分野の脱炭素化が必要です。 化学産業にとって、それは化石燃料に頼らない製造プロセスの確立を意味します。そして、化学物質を合成するためにバクテリアを使うことは、その解決策となります。カルフォルニア大学バークレー校とローレンス・バークレー国立研究所の研究チームは、生合成と呼ばれるコンセプトが「環境に優しく、再生可能なアプローチであり、幅広い種類の天然物や、場合によっては自然界にはない新しい製品の生産に使用できる」と論文で述べています。 例えば、科学者らは微生物を操作してアンモニア肥料や、ナイロンや他のプラスチックを作るための主要成分を生産してきました。問題は、生物学には合成化学者が利用できる反応の多くが欠けていることです。そのため、生合成を利用した場合、合成化学よりも得られる製品の幅が狭くなります。 そのような重要な製品のひとつに、カルベンと呼ばれる反応性の高い分子の一群があります。カルベンは、医薬品や燃料などの化学物質を製造する際に、化学反応を促進する触媒として使用されます。しかし、カルベンを作るには多くのエネルギーと高価な化学物質が必要となり、これまでは少量ずつしか作れませんでした。 そこで、バークレー校の研究チームは、バクテリアにカルベンを生成させることに成功しました。研究チームは、まずStreptomyces albusというバクテリアから始め、この微生物に遺伝子群を挿入しました。このバクテリアは糖を消化し、カルベンの構成要素に変換します。さらに、このバクテリアは、このビルディングブロックを使って、新しい生物活性化合物や高度なバイオ燃料の持続的な生産に使用できる可能性のある高エネルギー分子であるシクロプロパンを生産する進化した酵素も発現していました。 本研究の主任研究者であり、米国エネルギー省のJoint BioEnergy Institute…

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人工葉から液体燃料を作れるように

最新の人工葉は、二酸化炭素と水を高エネルギーのエタノールに変換し、自動車のエンジンに直接使用することができます。 文:Prachi Patel 2023年5月25日 太陽光だけを動力源とする新しい装置、つまり人工葉により、二酸化炭素と水を車のエンジンに直接使用できる液体燃料に変換できるようになりました。 Nature Energy誌で発表されたこの装置は、人工葉の最新の進化形です。研究者らは光合成を模倣して燃料を持続的に低コストで生産するこのようなシステムの開発に何年も取り組んできました。これまでの人工葉は、一酸化炭素や水素といった単純な生成物を生成していました。しかし、今回の人工葉は、エネルギー密度の高いエタノールとプロパノール燃料を製造することで重要な一歩を踏み出しました。 ケンブリッジ大学の化学研究者であり、論文の共著者であるMotiar Rahaman氏は、「これは、太陽光を唯一のエネルギー源として、二酸化炭素と水を液体の多炭素燃料( Liquid multi-carbon fuel)に直接変換できる、世界初の独立型人工葉だ」と述べています。 植物は太陽光を利用して二酸化炭素と水から糖分をつくります。このプロセスを模倣するため、研究者らは光を吸収する太陽電池と化学触媒をベースにした人工葉を作りました。ケンブリッジ大学の研究グループは、これまでにもいくつかの人工葉を作ったことがあります。そのうちの1つは、太陽光を電気エネルギーに変換するのに優れたペロブスカイトという種類の材料で作られたもので、水に浮かべて一酸化炭素と水素の混合物を生成することに成功しています。また、低コストで耐水性のあるオキシヨウ化ビスマスという光吸収剤を使った装置では、数週間にわたって水素燃料を生産することができました。 今回、研究チームは、複雑な液体燃料を一度に作ることでこの技術をより実用的なものにすることに成功しました。 彼らのこれまでの装置と同様にこの装置も2つの光を吸収する電極を備えています。1つはペロブスカイトで構成され、もう1つは光触媒として期待されるバナジン酸ビスマスでできています。光触媒とは、太陽光を吸収してエネルギーを作り出し、化学反応の動力源となる物質です。ここでは、バナジン酸ビスマスが太陽光を利用して水を水素と酸素に分解する光触媒となっています。…

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意外な家電製品がソーラーパネルの製造とリサイクルを容易にする

マイクロ波でシリコン太陽電池を加工すると、高温の炉に比べて時間とエネルギーが少なくて済み、またパネルの分解やリサイクルも容易になります。 文:Prachi Patel 2023年4月27日 過去10年間における太陽光発電の台頭は、気候変動対策のサクセスストーリーとなっています。しかし、太陽光発電には課題もあります。世界中で太陽光発電所が増えるにつれて、将来、大量の廃棄パネルが発生するという問題です。 オーストラリアの研究者らは、ソーラーパネルをリサイクルしやすくするだけでなく、製造コストも下げることができる技術を開発しました。しかも必要なのは台所の電子レンジだけです。 現在のソーラーパネルのほとんどはシリコンでできています。その製造過程で、シリコンは性質を変化させるため、炉の中で900℃以上の高温で加熱されます。そのため、多くのエネルギーが消費されるだけでなく、コストもかかります。オーストラリアの研究チームは、Applied Physics Letters誌に発表した論文で、シリコンを電子レンジで加熱すれば、よりエネルギー効率がよくなるだけでなく、使用後のパネルのリサイクルも容易になると報告しています。 国際エネルギー機関(IEA)によると、世界の太陽光発電容量は2000年の1.4ギガワットから2020年には760ギガワットに増加し、現在では世界の電力の約4パーセントを太陽光発電でまかなっています。 ソーラーパネルの寿命は通常30年程度です。2030年には約800万トンのパネルが寿命を迎えると予測されています。そして2050年には8000万トンになると言われています。 これらのパネルのほとんどは、溶出する可能性のある有毒な鉛を含んでいますが、埋立地に捨てられてしまいます。環境に悪影響を及ぼす可能性があるだけでなく、パネルには貴重な材料が含まれているため、これは資源の無駄遣いでもあります。パネルのリサイクルを義務付けているのは、今のところ欧州連合(EU)のみです。しかし、現在のリサイクル技術には限界があり、エネルギーを大量に消費しています。 マッコーリー大学のBinesh Puthen Veettil氏らは、ソーラーパネルの製造とリサイクルの両方を、より安価でエネルギー消費の少ない方法で行うことを考案しました。研究チームは、台所用の電子レンジを購入し、高温に耐えられるように耐熱処理を施しました。その結果、電子レンジを使えば、太陽電池のシリコンを炉とほぼ同じ効率で加熱・加工できることがわかったのです。マイクロ波がシリコンを選択的に加熱し、ガラスやプラスチック、アルミニウムから成るパネルの残りの部分はほとんど影響を受けませんでした。…

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使い捨てプラスチックの問題を解決するのは丈夫な紙袋かもしれない

水に濡れた時でも、紙袋を丈夫にする簡単な技術で、より再利用しやすくなり、最後にはバイオ燃料として利用することができます。 文:Prachi Patel 2023年5月4日 研究者は、簡単で安価な方法で、水に濡れても何度でも再利用できるほど丈夫な紙袋を作る技術を発見しました。この紙袋は、使い捨てのビニール袋に代わる、真のエコフレンドリーな袋となるかもしれません。 この耐久性のある紙袋は、最終的には分解してバイオ燃料として利用することができます。主席研究員のJaya Tripathi氏はプレスリリースで、「今回の研究で実証したような技術は(中略)、使い古した袋をバイオ燃料の原料として利用することも含め、その意義は非常に大きい」と述べています。ペンシルベニア州立大学のTripathi氏らはResources, Conservation and Recycling誌にこの研究成果を発表しています。 世界では、年間5兆枚のビニール袋が作られています。1枚の袋が分解されるのに1,000年以上かかると言われています。そのうちのかなりの割合が使われたあと最終的に水路や海に流れ込み、環境を汚染し、野生生物に害を及ぼしています。また、たとえ埋め立てられたとしても、分解されて有害なマイクロプラスチックや有毒化学物質が発生するため、環境に悪影響を及ぼす可能性があります。 紙袋は再生可能な資源から作られているだけでなく、プラスチック袋よりも分解が早く、動物への危険性もより少なくなります。しかし、だからといって、自然界にとって完全にクリーンな解決策となるわけではありません。 紙袋を作るには多くのエネルギーが必要で、プラスチックよりも重いため、輸送にかかるエネルギーも多くなり、1枚あたりの二酸化炭素排出量も多くなります。紙袋をプラスチック袋より環境にやさしいものにするには、3回から43回再利用する必要があるとの調査結果もあります。 しかも、紙袋は薄く、水分が付着すると耐久性が悪くなるという問題があります。そこでTripathi氏らは、紙をより強くする化学処理を考えました。酸素の少ない状態で紙をゆっくりと加熱するトレファクション(torrefaction)と呼ばれる技術です。これにより、紙のセルロース繊維は撥水性を増し、水に濡れても強くなります。 研究チームは、220℃で40分間加熱すると、紙の強度が2,233%という高い数値で上昇することを発見しました。しかし、強度が増す一方で、トレファクションにより紙に含まれるグルコースの含有量が減少し、バイオ燃料としての有用性が低下してしまいます。…

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バイオ燃料を作るスイッチグラスの可能性を広げる新発見

手がかりは根にあり、デンプンを蓄える根茎が光合成の速度を制御しているというのが研究者の見解です。 文:Emma Bryce 2023年3月10日 研究者らはスイッチグラスからより多くのバイオ燃料を作るための重要な手がかりを発見しました。これはスイッチグラスのバイオマス量を(推測上)50%以上増加でき、化石燃料からの脱却を加速させる重要な発見です。 スイッチグラスは、トウモロコシを原料とするバイオ燃料の5倍のエネルギーを生産できることから、世界的に最も重要なエタノール・バイオ燃料作物の1つになりつつあります。しかし、ミシガン州立大学の研究者らは、夏になると光合成を停止するというスイッチグラスの特異な習性の背後にあるものを解明できれば、さらに大きな成果を上げることができると考えています。 この植物はバイオマスを増やし、より強く、より大きな植物を作ることができるのにも関わらず、毎年、生育期の中盤から後半にかけて光合成をしていません。その鍵は、絡み合った根のネットワークにあると、研究者らは考えています。 多くのイネ科植物と同様、スイッチグラスの根には根茎があり、植物の光合成で作られた糖分から作られるエネルギー豊富なデンプンを蓄積する小さなカプセルがあります。この根茎は、イネ科植物が悪天候に見舞われたときに生き残るための緊急用の地下食料庫のような役割を果たします。しかし、研究者らは、それ以外の点ではイネ科植物を制限している可能性があると考えています。 その可能性を確かめるため、研究チームは2020年のアメリカ・ミシガン州でのスイッチグラスの生育期間中に一連の実験を実施しました。この実験では、自然に雨が降るスイッチグラスの区画と、雨を遮断して栽培した区画が比較されました。この比較は、降水量が多いほどCO2同化率(光合成の指標)が高くなり、逆に干ばつ状態ではCO2吸収率が通常低下することから、重要な意味を持ちます。 研究チームはこの2つの作物について、植物組織の分析も実施しました。 まず、露地栽培の作物では、乾燥が進むとCO2吸収量が低下する一方で、光合成が活発でなくなった後の生育期後半に突然大雨が降っても、初夏の水準に回復しないことが分かりました。つまり、光合成の低下は、スイッチグラスに降った雨の量以外の何かで説明する必要があるのです。 組織分析から、その手がかりが見えてきました。植物の光合成が減少しているのと同じように、根茎のデンプン量が増加している証拠を発見したのです。実際、生育期の中盤から後半にかけて光合成が50%低下すると、根茎のデンプンが4倍増加していたのです。 根茎のデンプン量は光合成の低下と逆相関しているようです。この現象の正確なメカニズムはまだわかっていませんが、研究者らは光合成が活発になる夏の早い時期に、根茎に炭水化物が急速に蓄積されるのではないかという仮説を立てています。しかし、根茎のスペースは限られているため、根茎がいっぱいになると、植物の生産に制約を与えることになります。根茎がいっぱいになると、スイッチグラスが作った糖分の置き場所がないことを知らせるために、光合成のスイッチが入り、プロセスが停止してしまうようです。 これは、バイオマスに転換できるはずの数週間の日照を、植物が逃してしまうことを意味します。これは取るに足らない量ではありません。研究者らは多くの複雑な要因を踏まえ、暫定的に試算しました。光合成の低下によって失われる炭素蓄積量の50%は、スイッチグラスの1ヘクタールあたり約1.2トンの余剰バイオマスに相当します。このバイオマスの生産量を増やすことができれば、バイオ燃料の生産量に大きな変化をもたらす可能性があります。 そこで、研究者らは次の課題に取り組んでいます。光合成のゲートキーパーとなりうる根茎を特定したことで、少なくともスイッチグラスの生産量減少の謎を解くための出発点ができたと、研究者らは述べています。…

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化学者がバクテリアを使って空気中のCO2をバイオプラスチックに変換

新しいシンプルかつハイブリッドな方法で、バクテリアがCO2を捕捉し、数日にわたって生分解性プラスチックを生産することが可能になり、生産量は従来の100倍に増加しました。 文: Prachi Patel 2023年3月30日 プラスチックと気候変動は、切っても切れない関係にあります。プラスチックは石油を原料としており、その生産のほぼすべての段階で温室効果ガスが排出されます。国際環境法センターによると、プラスチックの生産と使用が通常通り増加した場合、2030年までにその排出量は年間1.34ギガトンに達します。これは約300基の大型石炭火力発電所の排出量に相当します。 炭素循環を閉じるために、韓国の化学技術者らは二酸化炭素を効率的に生分解性プラスチックに変えるバクテリアを活用しました。これは「CO2排出量を減らし、環境に優しいバイオプラスチックを生産するための例外的な戦略」となり得ると、彼らはProceedings of the National Academy of Sciencesに書いています。 多くの革新的な研究者が、排出された二酸化炭素を回収して有用な化学物質、燃料、プラスチックを生産することを検討してきました。最も大規模な研究活動は、熱や電気とともに触媒を使用して、産業資源から回収した二酸化炭素をプラスチックに変えることに焦点を当てています。 研究者やいくつかのスタートアップ企業によって追求されている新しい方法は、空気中の二酸化炭素を回収してポリエステルに変えることができるバクテリアを活用するものです。10年以上前、科学者たちは、カプリアビダス・ネカトール(Cupriavidus…

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