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Future Earth
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カーボンフリーエネルギーへ迅速に移行すれば数兆ドルを節約できる可能性がある

グリーンエネルギーに関する技術のコストは急落しており、迅速に移行すれば、緩やかに移行するよりもはるかに費用を削減できる可能性があると研究者は述べている。 文:Prachi Patel 2022年9月15日 世界のエネルギーシステムを化石燃料からグリーンエネルギー技術に移行することで、少なくとも12兆米ドルを節約できることが、新しい研究により明らかになりました。 Joule誌に掲載されたこの研究は、2050年までに100%クリーンエネルギーに移行することで、化石燃料ベースのシステムよりも全体のコストが低くなることを示しています。また、クリーンエネルギーに移行することで、より多くのエネルギーを生産できるようになり、世界中でエネルギーがより利用しやすくなります。 気候変動に取り組むためには、エネルギー分野の脱炭素化が不可欠です。しかし、何千人もの命を救う可能性がある可能性のあるクリーンエネルギー技術への移行は、初期コストが法外に高いと考えられています。 しかし、オックスフォード大学の研究者らはこうしたコスト予測は間違っていると指摘します。過去のモデルは、再生可能エネルギーがどれだけ早く普及するかを過小評価し、コストを過大評価していたのです。このため、企業は再生可能エネルギー技術に投資せず、政府は化石燃料からの脱却を促進することができなかったと、主執筆者のRupert Way氏はプレスリリースで述べています。 そこでオックスフォード大学の研究チームは、過去のデータに基づいてより正確にコストを予測する確率論的モデル(probabilistic model)と呼ばれる別の方法に着目しました。研究チームは以前の研究で、石油、石炭、ガス、風力、太陽光、原子力を含む50種類の技術にこの方法を用いて検証しています。その結果、風力、太陽光、バッテリー、電気自動車、グリーン水素のコストは、主要なエネルギーモデルが予測したよりもはるかに大幅に低下していることがわかりました。太陽光発電の実際のコストは、最も野心的なモデルによる予測よりも2倍の速さで低下していました。一方、その間、化石燃料の価格は急騰しています。 今回の研究では、45年間の太陽光発電コスト、37年間の風力発電コスト、25年間の蓄電池コスト、そして水からグリーン水素を製造するための電解槽のデータを使用しました。 そして、これらの技術について確率的なコスト予測を行い、脱炭素化への移行シナリオとして「何もなし」「遅い」「速い」の3つを想定し、将来のエネルギーシステムにかかるコストを試算しました。 その予測に基づくと、風力発電、太陽光発電、グリーン水素のコストは低下し続けるとの結果が出ました。化石燃料ベースのシステムを継続する場合と比較して、グリーンエネルギーへの迅速な移行は、何兆円もの純費用を節約する可能性があることがわかりました。気候変動による損害の代償を考慮すれば、さらに大きな節約になる可能性があります。 20年以上にわたって、すべての主要なエネルギーモデルは、一貫してクリーンエネルギー技術のコストを過大評価してきたと研究者らは述べています。再生可能エネルギーはすでに化石燃料より安い場合もあり、その規模を急速に拡大すれば、コストはさらに低下します。…

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環境に優しいグリーン製品は必ずしも環境に無害ではない

洗濯用洗剤は検証された製品の中で最も毒性の高いものの一つでした。 文:Sarah DeWeerdt 2022年9月13日 多くの人は、「グリーン」とマークされ販売されている家庭用洗剤やパーソナルケア製品は、従来のブランドよりも環境への影響が少なく、これらの製品は素早く簡単に分解され無害なものになると思っています。 しかし実際はどうなのかということについてあまり研究されていません。企業秘密により、製品のレシピは開示される必要がなく、「環境にやさしい」という主張が独自に検証されることはほとんどありません。 実際、新しい研究で環境に優しい製品の中には、従来の同等品と同等かそれ以上の毒性を持つものがあることがわかりました。また環境中に放出された場合、毒性が増す可能性があることもわかりました。 研究者らは、水生毒物学(aquatic toxicology)の実験によく使われる甲殻類であるガラスエビとミジンコの幼生をさまざまな家庭用品に暴露しました。水生生物に注目したのは、家庭用品は排水や下水によって水生環境に入るのが一般的であり、家庭用品によく含まれる化学物質の中には水生生物に有害であることが知られているものがあるからです。 研究では、洗濯用洗剤、食器用洗剤、マウスウォッシュ、殺虫剤、食洗機用洗剤ジェル、オールパーパスクリーナーの6つのカテゴリーにおいて、それぞれ従来製品2種類と「グリーン」だとされる代替品1種類を検証しました。これらの製品はすべて米国サウスカロライナ州チャールストンの食料品店で購入されたもので、米国で広く消費者に提供されているものです。 そしてその結果、環境に優しいグリーン製品も従来の製品も、ガラスエビとミジンコに対して有毒であると研究者らが学術誌Environmental Toxicology and Chemistryに報告しました。 実際「グリーン」な食洗機用洗剤は、2種類の従来製品よりもガラスエビとミジンコの両方に対して毒性が高かったことがわかりました。一方、…

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小型デバイスによる解析は大規模な炭素貯留をサポートする

ラボオンチップが岩石中でどのようにガスが化学反応を起こすのか、高時間分解能とスケールで明らかになりました。 文:Prachi Patel 2022年8月11日 地球温暖化による壊滅的な被害を防ぐために、国連などの機関は二酸化炭素を閉じ込め、貯留する技術を緊急に拡大するよう呼びかけています。 そのためには大量の二酸化炭素を回収し、地下の岩盤に注入しなければなりません。しかし、このプロセスの長期的な有効性と信頼性についてはまだよくわかっていません。 スタンフォード大学の科学者らは、地下への大規模な貯留の影響を評価するために小さな装置に注目しました。これはラボオンチップ、あるいはマイクロ流体デバイスと呼ばれ、物質の物理や化学を微視的スケールで研究するためによく使われるものです。研究者らは現在、この装置に頁岩(けつがん)の微小片を入れ、ガスや酸にさらされたときに岩石がどのように反応し、変化するかということについて研究しています。 Proceedings of the National Academy of Sciences誌に掲載されたこの研究の結果は、特定の地質場所に貯留された二酸化炭素、その他のガスや廃棄物がどのようになるかということを評価するための情報になります。 炭素回収と貯留は世界中で増加しており、すでに30の大規模プロジェクトが稼動しており、少なくともその3倍が計画されています。これらのプロジェクトのほとんどは、塩水帯水層や油性・ガス井に温室効果ガスを閉じ込めています。…

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木から衣服を作ることは食糧安全保障と環境の両方にとって良い結果をもたらす

ポプラの新品種は、ヨーロッパの綿花栽培の大部分を代替できるほどの繊維を作り出します。さらに、綿花栽培に使われている土地を他の用途に活用できるようになります。 文:Emma Bryce 2022年9月2日 成長を維持するために持続不可能な量の水や化学物質と肥料を必要とし、私たちに食料を提供しない作物は世界中で見られます。それは綿花で、世界中の3,450万ヘクタールの耕作地を覆っています。 スウェーデンの研究チームは、この綿花の一部を成長の早いポプラの木に置き換え、それから繊維を作れば何百万ヘクタールもの綿花栽培地を解放し、代わりに食料を栽培することができると提案しています。 さらに、新しい処理方法を用いれば、ポプラの木全体を利用し、残った木材から燃料となるバイオオイルを抽出することも可能であることを明らかにしました。研究チームはまた、ポプラの森は成長するにつれて炭素を吸収するとJoule誌に報告しています。 綿花1トンを生産するのに2,955m3の水が必要となり、またその過程で肥料などの化学物質が淡水域に流出し、下流の富栄養化を引き起こすなど膨大な汚染が発生します。化学物質をほとんど使わずに栽培されるオーガニックコットンは、解決策のひとつです。しかし、現在、世界の綿花生産のわずか1%を占めるにすぎず、生産にはより多くの土地を必要とします。 そのため、木材のセルロースを原料とするビスコースやリヨセルなど、よりサステナブルな繊維への需要が高まっています。 ポプラはセルロースの原料となる樹木で、綿花のように人工的な介入を必要としません。そこで研究者らは、この生産性の高い樹種が綿花に取って代わるだけでなく、資源や土地の節約につながるかどうかということに注目しました。 まず、バルト海沿岸の国々(スウェーデン、ポーランド、ドイツ、リトアニア、ラトビア、エストニア、ロシア、デンマークの一部)を対象に、ポプラ栽培に適した北欧の未耕作のマージナルランドを調査しました。マージナルランドとは、林地に指定されていない土地で、アクセスが悪かったり、砂質土壌のため収穫量が少なく、農業に適さない土地のことです。 研究者らは、農業と競合することなくポプラを栽培できる土地として、これらの国々で土地全体の3%弱である460万ヘクタールのマージナルランドを特定しました。 そして、ポプラの木がこの地域でどれくらいのバイオマスを生産できるかをモデル化しました。ポプラの木の中でも特に注目したのは、北部の極寒の地でも生産できるよう、気候変動に強い特性を持つ2つの(SnowTigerとOP24と名付けられた)ポプラのクローンです。 研究者らは、木材パルプを繊維や糸にするための「還元触媒分別」と呼ばれるより効率的な抽出方法の可能性も探りました。この方法では、セルロースを繊維に加工した後に残る50%の木材から副産物として油を抽出し、それをバイオ燃料の原料にすることも可能になります。 研究者らは2種類のポプラの成長データを用いて、バルト海沿岸諸国の広大なマージナルランドで、これらの木から毎年1ヘクタールあたり2.4トンの繊維状パルプを生産することができると計算しました。45年間でポプラの木を2回輪作すると、1ヘクタールあたり216トンのビスコース繊維ができることになります。…

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糖に分解できる廃棄物系バイオマスを原料とする強靭なプラスチック

安価な材料で作ることができ、従来の食品包装用プラスチックと同じように高温に耐え、また食品に有害なガスを遮断することができます。 文:Prachi Patel 2022年7月21日   プラスチック汚染に対処するためには、プラスチックの使用量を減らし、リサイクルを促進する必要があります。しかし、プラスチックは現代の生活には欠かせないものとなっています。そこで、研究者はプラスチックの欠点に対処するもうひとつの方法として、強度を持ちながらも自然界で分解可能なプラスチックを作ることに取り組んでいます。 最新の取り組みはスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のチームによるもので、彼らは非食用植物から環境中で無害な糖に分解されるプラスチックを作りました。このプラスチックは従来のプラスチックに非常に近い特性を持っているため、食品や飲料の包装に適しています。強度があり、高温に耐え、食品を傷める酸素などのガスを遮断することができます。 現在市販されているバイオプラスチックは、トウモロコシのデンプンやサトウキビから得られる糖類を原料としているのが一般的です。しかし、その特性は化石燃料由来のプラスチックと真っ向から競合できるものではありません。高価であることに加え、高温に耐えられない、さまざまな形状に引き伸ばすことができない、ガスを遮断することができない、など様々な課題があります。また、自然界では従来のプラスチックと同じように分解が困難な場合も多くあります。 2016年、EPFLの研究者らは、植物の木質で食べられない部分からプラスチックやバイオ燃料に価値のある分子を作る方法を発見しました。彼らの研究は植物の細胞壁に含まれ、植物に剛性を与える長鎖状の分子であるリグニンに着目しています。リグニンは地球上で2番目に多く存在する天然物質ですが、農業や製紙業から排出される廃棄物でもあります。EPFLの研究チームは、一般的な化学物質であるホルムアルデヒドを加えることで、リグニンを有用な分子に変えることができることを発見しました。 Nature Chemistry誌に掲載された新しい研究では、上記の研究をさらに発展させています。新しい研究では、ホルムアルデヒドの代わりにグリオキシル酸を用いて、リグニンをプラスチックの主要な構成要素に変換しています。その結果、農業廃棄物の重量の最大25パーセントをプラスチックに変換することができたと報告しています。 このプロセスはシンプルで拡張性があり、安価な無機酸を触媒として使用するものであると研究者は報告しています。また、グリオキシル酸は工業的に入手可能な安価な化学物質です。 実験室でのテストでは、従来のプラスチックと同様に100℃の高温に耐えることができました。また、強度や剛性も同様の結果を示しました。さらに、包装用フィルムや、紡いで布にする繊維、3Dプリンター用のフィラメントに応用することができました。 この素材は化石由来のプラスチックと同じように化学的にリサイクルすることができます。また、環境中に廃棄されたとしても、最終的には常温の水中で構成要素である糖に分解されます。このプラスチックは、安価で持続可能なプラスチックとして有望視されていますが、「このポリマーの環境動態を完全に理解するには、毒物学的および生分解性に関する詳細な試験が必要である」と研究グループは書いています。 出典:…

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絶滅を避けるため集中的かつ実践的な支援が半数以上の希少種に必要

世界のリーダーらは世界の生息地の30%を保護することを約束していますが、多くの絶滅危惧種にとってそれだけでは十分ではないと科学者らが警告しています。 文:Warren Cornwall 2022年7月20日 国際的な協議では絶滅の危機を食い止めるために何をすべきか議論していますが、その議論は主にどのくらいの生息地を保護するかに焦点が当てられています。しかし、最も絶滅の危機に瀕している多くの動物にとって、生き残るためには生息地を確保するだけでは不十分です。 自然保護科学者のチームによると、希少種の半数以上は、動物園での繁殖、野生環境における追加の給餌、空き地への移動、病気に対するワクチン接種など、集中的かつ実践的な支援を必要としているといいます。 「この研究は特定の地域を保護するだけでは種の絶滅を防ぐことはできないことを示している」と、バードライフ・インターナショナルの主任科学者で、今回の研究に参加したStuart Butchart氏は述べています。 この調査結果は、生物種の保全に関する主要な国際協定である国連生物多様性条約に関する締約国会議がモントリオールで開催される5カ月前を前にして発表されたものです。 自然保護論者や一部の世界的な指導者らは、生物種の生息地として地球上の陸地と海の30パーセントを保護するよう働きかけており、このことが大きな注目を集めてきました。しかし、Butchart氏や他の科学者らは、生物種が生息する場所の保護と復元に注力することが、最も危機に瀕している生物にとって十分であるかどうかということを精査したいと考えました。 Butchart氏は、6つの大陸から集まった17名の自然保護科学者から成る、国連のような研究チームに参加しました。彼らはまず、国際自然保護連合(IUCN)が管理する絶滅危惧種のリストを確認しました。一般に「レッドリスト」として知られるこのリストは、地球上の絶滅危惧種を網羅した最も権威のあるものとされています。科学者らは、37,000種以上あったリストを、特に絶滅の危機に瀕していると思われる7,784種に絞り込みました。両生類(2,444種で最多)からカブトガニ(2種)まで、さまざまな種類の生物が含まれています。 そして、これらの生物が直面する主な脅威についてIUCNが記述したものを詳細に調べ、2021年7月に発表された保護協定の最新草案に明記されているさまざまな行動と照らし合わせていきました。そのうちの7つの目標は、生息地の回復と保護、汚染や野生動物の過剰消費及び外来種の蔓延を抑制するための公約を中心に据えています。 研究者らは学術誌Frontiers in Ecology…

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低コストな人工葉が数週間にわたり水素を生成

水を分解して水素燃料にする太陽光集光材料で作られたシステムは、通常、数分から2日程度しか持たないが、化学者と材料科学者のチームが、これを数週間まで可能にしました。 文:Prachi Patel 2022年6月16日 豊富な材料で作られた新しい人工葉が、水と太陽光から数週間にわたって水素を発生させ、これまでの記録を塗り替えたと新しい研究が報告しました。この発見により、燃料となるグリーン水素を持続可能かつ安価に製造する方法が可能になる可能性があります。 水素は燃料として、ガソリンやディーゼルに比べて重量あたり3倍、リチウムイオン電池よりもはるかに多くのエネルギーを保持することができます。また、水素を燃料として電池のようなもので走る水素燃料電池自動車は、副産物としてマフラーに水が出るだけです。水素は特に航空や船舶などの長距離輸送の燃料として有望視されています。 しかし、輸送の脱炭素化のためには、水素はより環境に優しいものでなければなりません。現在、水素は主にメタンを分解して製造されていますが、その際、二酸化炭素が発生します。グリーン水素は、再生可能な電力を使って水を分解することで製造されます。 電気を使わずに水素を製造するもうひとつの方法は、植物の光合成に似た方法で水を分解するために太陽光を利用することです。しかし、ペロブスカイトのような安価で地球上に豊富にある材料で作られた人工葉デバイスは、水に浸すとうまくいかず、通常数日しか持ちません。 英国の化学者と材料科学者のチームが、Nature Materials誌に無毒で入手しやすいビスマス酸ヨウ化物という光吸収材料を用いた装置について報告しています。ケンブリッジ大学材料科学・冶金学教授のJudith Driscoll氏はプレスリリースで、「我々は、この材料の幅広い用途の可能性と、製造が簡単で毒性が低く安定性が良いことから、以前からこの材料に取り組んできた」と述べています。 さらに、ビスマス酸ヨウ化物の安定性を高めるために、それを2枚の金属酸化物層で挟み込みました。そして、撥水性のあるグラファイトペーストで装置をコーティングし、光吸収層の安定性を数分から数週間へと向上させました。 研究チームは太陽電池にヒントを得て、ガラス表面に小さな光を吸収するエリア(ピクセル)のあるデバイスを作製しました。試験の結果、この複数のピクセルがあるデバイスは、同じ面積の大きなピクセルを1つ持つ従来のデバイスよりも性能が優れていることがわかりました。これは、一部のピクセルに欠陥があっても、他のピクセルの性能に影響を与えないためです。 この材料とピクセルの設計コンセプトは、持続可能な水素製造のための大規模な人工葉システムへ道を開く可能性があると研究チームは述べています。 出典:…

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自然に基づいた農法は、化学肥料との併用で収量を増やすことができるのだろうか?

自然に基づいた農法が化学肥料の大部分を補い、高い収量を達成できることを生態的集約化(ecological intensification)に関する最も包括的な研究の1つが明らかにました。 文:Emma Bryce 2022年6月8日 農業において、環境に優しい農法が工業的な農地と同じ収穫量を達成できるのかということは長年の疑問です。 新しい研究によるとその答えは少なくとも部分的には可能だということです。自然に基づいた農法と伝統的な農法を適切に組み合わせることで、化学肥料の使用量を大幅に減らしながら、同じ収穫量を得ることができると示しています。 この研究では、ヨーロッパとアフリカで使われた自然にやさしい農法に関する30以上の長期的な研究(そのうちのいくつかは9年間にわたるもの)を通じて集められた大量のデータを分析し、作物の多様化、マメ科植物などの窒素固定植物の栽培、廃棄物の土壌への撒布などの方法が、世界の農地で高収量を得るために投与されている化学肥料の大部分を代替できることを研究者らが明らかにしました。 これらの方法は、現在普及が進んでいる「生態的集約化(ecological intensification)」と呼ばれる農業アプローチに該当します。これは「収量の維持または増加のために、人為的投入の役割を補完または代替する」一連の自然プロセスを説明するものであると研究者は書いています。この新しい研究で引用された一人の研究者は、これらの手段を「自然によって維持され、自然の中で持続可能であるもの」と説明しています。 従来の農業では土壌や水、海洋を著しく汚染し、生産過程で大量の温室効果ガスを排出する化学肥料がその多くを占めていましたが、これはその影響を軽減しつつ、高い食糧生産量を維持することを目的としています。 さまざな農業において、これまで生態的集約化がどの程度収量を増加させるのか、誰も実際に調査したことはありませんでした。そこで研究者らは、様々な手段を用いて30件の研究から収集した確実なデータを組み合わせ、その効果を比較対照できるモデルを構築しました。 このデータセットには、生態的集約化に関する方法とさまざまなレベルの合成肥料散布を組み合わせた農場試験もいくつか含まれています。これを用いて研究者は、自然に優しいアプローチが、収量を増加させるためのより伝統的な方法とどの程度両立できるかを調べ、相乗効果の可能性について調査しました。 その結果、さまざまな地域や農業の状況において、生態的集約化が化学肥料の重要な代替物となり得ることが明らかになりました。農地にマメ科の窒素固定植物を植えれば、窒素が土壌に固定され、植物に自然に栄養分が供給されます。また、家畜の糞尿を土壌に混ぜると、窒素、リン、カリウムが供給され、収穫量が増えます。また、被覆植物で作物を多様化することで、土壌の肥沃度を高め、病害虫に強い畑にすることができます。 しかし、研究者らはこの関係に複雑な問題があることも明らかにしています。それは、農家が土壌に与える化学的な窒素肥料の量によって、生態的集約化の効果が制限されることです。通常レベルの化学肥料が畑に散布されている場合、自然に優しい農法の利点が打ち消されてしまうのです。例えば、窒素固定効果のあるマメ科植物を加えても、少量の化学肥料を施した場合のみ収量が増加し、窒素肥料を広範囲に散布した場合には、その効果はかき消されてしまいます。同様の結果は、堆肥の散布や作物の多様化でも見られています。…

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高層ビルのエレベーターを使った発電方法

高層ビルを「重力バッテリー」にするアイデア エレベーターを利用して重い荷物を上下させることで電池よりも低コストでエネルギーを蓄えることが可能になるという斬新なコンセプト 文: Prachi Patel 2022年6月2日 重力から逃れるのは難しいことです。ではなぜそれを有効活用しないのでしょうか?研究者らは、重力を利用してエネルギーを貯蔵することで高層ビルを巨大なバッテリーに変えるという新しいコンセプトを提案しています。このアイデアにより既存のエレベーターと高層ビルの空きスペースを活用することができます。 再生可能エネルギーを使って、重い固体をビルの最上階まで運び、位置エネルギーとして効果的に蓄えるというもので、その固体が下に降りてくるときに、発電機を動かして電気を発生させます。世界中に高層ビルがあることから、このようなシステムによって毎時30〜300ギガワットのエネルギーを貯蔵することができると研究チームはEnergy誌に報告しています。 再生可能エネルギーが世界的に急増する中、電池に代わる低コストで長寿命のエネルギー貯蔵に対するニーズが高まっています。重力エネルギー貯蔵は、世界中で試されている新しいコンセプトの1つです。いくつかのスタートアップ企業が、クレーンや既存の鉱山坑道を利用して、重い塊を持ち上げたり落としたりしてエネルギーを貯蔵・放出するシステムを開発しています。 エレベーターは、エネルギーを貯蔵する場所がすでにあり、そのエネルギーが必要な場所に設置されているという大きな利点があります。世界中で1,800万台以上のエレベーターが稼働していますが、その多くが空の状態で使われていません。この間、再生可能エネルギーを活用できれば、エレベーターは湿った砂の入った大きなコンテナのような重いものを上まで持ち上げることができます。自律型トレーラーロボット(エレベーター)がそのコンテナを持ち上げ、運搬できるのです。 そして、電力が必要になったら、重いコンテナを下に落として、回生ブレーキシステムで運動エネルギーを回収します。回生ブレーキは、動いている車や物体から、熱になるはずの運動エネルギーを回収し、電気に変換します。電気自動車やハイブリッドカーによく使われています。 この論文の主執筆者で、また電気トラックを坂道で走らせ、エネルギーを蓄えるというアイデアを最近提唱したオーストリアの国際応用システム分析研究所(IIASA)のJulian Hunt氏は、「これは既存のインフラを利用して、エネルギー貯蔵という二次サービスを提供するという点で、現実的な選択肢となる。この技術は、都市部で電気を消費する場所の近くに分散してエネルギーを貯蔵できることから重要である」と述べています。 導入にあたっては、ビルの上下にコンテナを収納するための空きスペースがあることと、回生ブレーキシステムを搭載したエレベーターがあることの2点をクリアする必要があります。 Hunt氏は、現在、回生ブレーキを搭載したエレベーターを導入している建物はごくわずかであるものの、今後、世界中の多くの建物に導入されることが予想されると述べています。また、老朽化して交換が必要なエレベーターにも、回生ブレーキシステムを導入することができます。…

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AIが設計した酵素がプラスチックゴミを数日で分解

新しい酵素は、従来のものよりも低温で機能するため、より環境に優しく、より速く作用し、より安価な選択肢となる 文:Prachi Patel 2022年5月5日 世界で毎年生産される約4億トンのプラスチックのほとんどは埋立地や自然環境で分解されるまでに何世紀も放置される可能性があります。 研究者らは、人工知能(AI)の力を利用して、一般的に使用されているプラスチックをわずか1日から2日で分解できる酵素を設計しました。Nature誌に掲載されたこの酵素は、繊維や食品・飲料の包装によく使われるポリエチレンテレフタレート(PET)を化学的構成要素に分解します。 研究者らはまた、この分子を再びPETプラスチックにリサイクルできることを明らかにしました。このことは酵素を用いたプラスチックのリサイクルを工業規模で実現できることを示すものだと研究チームは述べています。テキサス大学オースティン校の化学工学教授で、この研究の共著者であるHal Alper氏は、「この研究がプラスチックの循環型経済を実現する方法を確立するきっかけになれば良いと思う」と言っています。 研究者らは2005年に、ヒドロラーゼ(加水分解酵素)と呼ばれる一種の酵素が、PETプラスチックを構成する長く強く結合した分子鎖を切ることができることを初めて明らかにしました。それ以来、同様の働きをする他の酵素がいくつか開発されています。フランスのスタートアップであるCarbiosは現在、人工のバクテリア酵素を使ってPETプラスチック廃棄物をリサイクルする産業施設の建設を計画しています。 しかしながら、これまでの酵素を使った方法のほとんどは高温が条件として必要となっていました。これに対し、新しい酵素は室温に近い温度で作用するため、エネルギー消費量が少なく、コストも低く抑えられます。また「既存の他の酵素と比較しても迅速に作用する」とAlper氏は言っています。 Alper教授と彼の同僚らは、まず、ある種の細菌が生産するPETaseと呼ばれる酵素から研究を始めました。この酵素は常温でPETを分解すると知られていますが、約24時間経過すると効果がなくなってしまいます。他の研究者は、この酵素をより強固にするために工学的に改良しようとしましたが、あまり効果的ではありませんでした。 そこでUT Austinの研究チームは、どの酵素に変異を加えれば低温でより速く作用するようになるかを見極めるため、機械学習アルゴリズムを活用しました。そして、この変異型酵素をつくり、51種類の使用済みプラスチック容器で試してみました。すると、酵素は48時間以内にペットボトルや容器を完全に分解し、場合によっては1日以内に分解したものもあったのです。 Alper氏は、現在「このプロセスを工業的な条件下でスケールアップする方法と、この同じタイプのアプローチを他のプラスチック資源に適用する方法を評価しているところだ。世界のいくつかの企業が大規模な酵素解重合を検討し始めているので、この研究はかなり有望だと思う」と言っています。 出典:…

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洗濯の仕方を変えれば、大気汚染を大幅に削減できるかもしれない

新しい研究によると、タンブル乾燥機はマイクロファイバーによる汚染を引き起こすことがわかりました。短期的な解決策はドライヤーシートや柔軟剤の使用と糸くずフィルターの改善です。長期的な解決策はコンデンサー式乾燥機を使用することです。 文:Sarah DeWeerdt 2022年4月12日 タンブル乾燥機は、洗濯機よりも多くのマイクロファイバーを発生させると新しい研究が指摘しています。マイクロファイバーとは、環境や人体に悪影響を及ぼす可能性のある小さな繊維のことです。マイクロファイバーの多くは乾燥機の糸くずフィルターに付着しています。それでも、洗濯物をタンブラー乾燥すると空気中に、洗濯によって排出されるマイクロファイバーとほぼ同じ量のマイクロファイバーが放出されているのです。 研究チームのメンバーで、イギリスのニューカッスル・アポン・タインにある消費財メーカーProcter & Gamble社の研究者Neil Lant氏は、「換気乾燥機からの大気汚染は非常に深刻だ」と指摘しています。しかしこの問題は「長期的には、機器のろ過技術の進歩によって比較的容易に解決できるはずである。エネルギー消費を抑えるために、コンデンサー式乾燥機やできればヒートポンプ式乾燥機への移行と共に実施されると理想的だ」と言っています。 Procter & Gamble社とNorthumbria大学のLant氏と彼の同僚は、ヨーロッパと北米の洗濯機、洗濯用品、典型的な洗濯機の設定を使って、綿100%とポリエステル100%のTシャツを10枚ずつ、合計1200枚を洗濯・乾燥させました。そして、洗濯機の排水口から排出されたマイクロファイバー、乾燥機の糸くずフィルターから採取したマイクロファイバー、乾燥機の排気口から空気中に放出されたマイクロファイバーの質量を測定しました。 近年、洗濯機から発生するマイクロファイバー汚染についての懸念や研究は多く見受けられますが、衣類乾燥機からのマイクロファイバーについてはあまり知られていません。今回の研究は、同じ衣服の洗濯と乾燥の両方から発生するマイクロファイバーを定量化し、直接比較する初めての試みです。 ヨーロッパと北米の洗濯条件で試験を行った結果、タンブラー乾燥で空気中に放出されるマイクロファイバーの量は、洗濯で「排水口」に排出される量と同程度であることが分かった」と研究者らはPLoS ONE誌に報告しています。…

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エンジニアが夜間でも発電できる太陽電池を開発

夜間にLED電球の点灯や携帯電話の充電ができ、高価なバッテリーの必要性がなくなる可能性があります。 文:Prachi Patel 2022年4月21日 太陽光発電の大きな制約の一つは太陽が沈むとソーラーパネルが機能しなくなることです。スタンフォード大学の研究者らは、今回その制約を克服しました。市販の太陽電池に手を加えることで、携帯電話の充電やLED電球の点灯に必要な電力を夜間に作り出すことができる太陽電池を作ることに成功したのです。 この研究成果をApplied Physics Letters誌に発表した電気工学科のShanhui Fan教授は、「太陽電池の時間的な動作範囲を真に拡大したかった」と語っています。 太陽電池はシリコンなどの材料でできていて、太陽光を吸収して電荷キャリアを生成し、電流を流すことができます。また、日中は太陽光を吸収して暖かくなります。そして夜、暗い空になるとその熱を宇宙空間に放射します。この現象は放射冷却と呼ばれ、研究者はこれを利用して、太陽光を反射する塗料や材料、建物の冷却システムなどを作ってきました。 Fan教授らはこの現象を利用して、2019年にLED電球の点灯に十分な電力を発生させる装置を開発し、報告しています。彼らは今回、このアイデアを太陽電池と統合させました。 Fan教授らは、市販の熱電発電モジュール(温度差で発電する装置)を、シリコン太陽電池の下側に取り付けました。夜間、太陽電池が熱を放射すると、その温度は周囲の空気より数度低くなります。これにより、太陽電池側は冷たく、空気側は熱いという温度差が熱電発電モジュールに生じます。 スタンフォード大学の屋上で行ったテストでは、この装置は1平方メートルあたり平均50ミリワットを発電しました。Fan教授は、日中の太陽電池の発電量が1平方メートルあたり100ワットであることに比べれば発電量が多いわけではないが、非電化地域や低資源地域でのバックアップ電源としては十分だろう、と指摘しています。さらに、日中に発電した太陽光をバッテリーで蓄電するよりも、低コストで長期的に活用できる可能性があります。 Fan 教授によれば、断熱材と熱電装置をさらに改良し、太陽光の吸収能力を犠牲にすることなく、より多くの熱を放射するように太陽電池を設計すれば、このシステムからより多くの夜間電力を発電できると言っています。理論的には、1平方メートルあたり1ワットまで可能です。…

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